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タイ、王室改革にも切り込むデモ再燃、「和解の望みは絶たれようとしている」と人権団体

2021年8月16日(月)13時35分
セバスチャン・ストランジオ
タイの反政府デモ

8月11日にはデモ隊が機動隊に投石するなど衝突が激化し、騒乱状態に AP/AFLO

<昨夏の集会に比べれば小規模だが、警官隊との衝突の激しさは混乱の広がりを予感させる。タイはどうなるのか>

タイの首都バンコクで8月10日、昨年の大規模反政府集会から1周年の反政府デモが起き、機動隊が催涙ガスや放水砲でデモ隊を蹴散らす騒ぎになった。

プラユット首相の辞任を求める反政府派は翌11日にもバンコクのディンデーン区付近に結集。AP通信によると、一部が暴徒化し、「ピンポン爆弾」と呼ばれる小さな手製爆弾を投げ、車に放火するなどして辺りは騒乱状態になった。

ロイターが伝えた警察関係者の話によれば、デモ隊との衝突で少なくとも6人の警官が負傷。警官の1人は脚を撃たれ、3人が手製爆弾の破片を浴びたという。

デモ隊側の負傷者数は不明だが、インターネット上に出回った動画や画像を見ると、警察と同様かそれ以上の被害が出たもようだ。

新型コロナウイルスの感染防止のための集会禁止措置に違反したとして少なくとも6人が逮捕された。

ディンデーン区では8月7日にも同様の騒ぎが起きた。デモ隊が政府に突き付けているのは、昨年の大規模集会で若者たちが掲げたのと同じ要求だ。

プラユットの辞任、「真の民主主義」を実現するための憲法改正、そして王制の抜本的な改革。タイでは王制は神聖不可侵とされてきたが、今では若年層を中心にそこにも切り込む民主化のうねりが始まっている。

昨年8月10日、バンコク郊外のタマサート大学で行われた集会では、学生たちは10項目の王制改革案を提示した。改革案には王制や王室への批判を封殺する「不敬罪」の撤廃や膨れ上がった王室予算の削減が含まれる。

学生たちの要求を後押しする声が高まるなか、政府と治安当局は不敬罪を適用して改革運動を主導する若者たちを次々に逮捕。コロナ対策のための集会禁止措置なども手伝って、運動は下火になった。

今年8月のロイターの報道によると、昨年の集会以降、これまでに103人が不敬罪で告発された。同罪は違反1件につき最大15年の禁錮刑が科される。全て有罪なら300年の禁錮刑となる活動家もいる。

タイでは今春までコロナの感染拡大を抑え込めていたが、デルタ株の蔓延で感染者が激増。今回のデモでは、プラユット政権のコロナ対策にも批判の矛先が向かった。

オックスフォード大学のデータによると、タイでは8月11日時点で2回のワクチン接種を受けた人が6.9%と東南アジアでも2番目に少ない。

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