最新記事

生きた動物や人間から毛を失敬 シジュウカラの大胆不敵な犯行

2021年8月13日(金)17時00分
青葉やまと

眠っているキツネから毛を盗むシジュウカラ科のクロエボシガラ Photo:Texas Backyard Wildlife

<巣作りに利用。わざわざむしり取るのには理由があるようで......>

鳥の巣をよく観察すると、材料に動物の毛が紛れ込んでいることがある。実は意図的に哺乳類の毛を使っている場合があり、こうした例は多くの鳥類の系統でみられるものだ。巣を保温する効果を持ち、とくに寒冷地においてヒナの生存率を高める効果があると考えられている。

その入手経路は完全に解明されているわけではないが、過去の研究においては環境中に落ちている抜け毛や動物の死骸から回収するという考え方が示されてきた。ところが最近、生態学の研究者がみずから目撃した事例により、生きた動物から毛を抜き取っている可能性が浮上。調査を進めた結果、同様の事例が稀ながら各地で起きていることが判明した。

このめずらしい事例をアメリカで目撃したのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で環境科学を研究するジェフェリー・ブラウン教授たちの一行だ。米中東部イリノイ州の国立公園内で野鳥の個体数調査を行っていたところ、木の上の地表約3メートルの位置で寝ているアライグマを発見した。その周囲にはシジュウカラが飛んでおり、2〜3分かけて徐々にアライグマに接近すると、毛をついばみはじめたという。シジュウカラは4分ほどのあいだにアライグマから20本以上の体毛を抜き、それをくわえたまま飛び去っていった。

興味をもったブラウン教授たちは、過去の研究や映像資料などの分析に着手した。すると、シジュウカラなど一部の鳥が生きた動物から毛を抜く習慣があることが明らかになった。この行動は以前から限定的に確認されており、ギリシャ語で「毛を盗む」を意味する「クレプトトリシー」という学術的な名前が付けられている。ブラウン教授はより幅広い事例を収集し、同校で進化生態学を研究するマーク・ハウバー教授らとの共著で論文にまとめた。論文は7月下旬、学術誌『エコロジー』に掲載されている。

リスク高い行為 「確実に命を危険に」

数倍の体格差がある動物から毛を何度もむしり取るという行動は、非常にリスクが高い。イリノイ大学が発表したニュースリリースのなかでブラウン教授は、「しかし私が見たシジュウカラは、生きた動物から毛をむしっていたのです」「ツメもキバもある生きたアライグマからです」と述べ、驚きをあらわにしている。

共著者のハウバー教授も、同様の所感を抱いたようだ。カナダ放送協会のラジオ番組『アズ・イット・ハプンズ』に出演し、「口を開けたクロコダイルのなかを歩き回る鳥や、危険を冒してキリンの体に登る鳥などのことを思い出しました」「その行動で確実に命を危険にさらしています」と語っている。

教授が挙げた例は共生関係だ。ワニチドリとも呼ばれるナイルチドリは、ワニの歯に挟まった食べかすを漁り、歯の掃除屋としての役割を果たす。スズメ目のアカハシウシツツキはキリンなど草食動物に取りつき、有害な虫やダニなどを捕食している。

しかし、シジュウカラに毛を奪われたところで、アライグマ側には何のメリットもない。ハウバー教授はカナダ放送協会に対し、シラミかダニを取っているようにはみえないため、「被害者」側にはなんの得もないと説明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

韓国高官、大統領選前の米との関税交渉決着「理論的に

ビジネス

日産自の業績に下方圧力、米関税が収益性押し下げ=S

ビジネス

NEC、今期の減収増益予想 米関税の動向次第で上振

ビジネス

SMBC日興の1―3月期、26億円の最終赤字 欧州
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中