最新記事

生きた動物や人間から毛を失敬 シジュウカラの大胆不敵な犯行

2021年8月13日(金)17時00分
青葉やまと

ヒナのため暖かく安全な巣を......

それでは、なぜシジュウカラはリスクを冒してまで、生きた動物から体毛を集めるのだろうか? 理由のひとつは断熱性能だ。哺乳類の毛を使うことでヒナたちの体温を保ち、無事に巣立てる可能性が向上する。しかし、これだけでは危険を冒す理由づけとして不完全だ。地面に落ちている古い体毛を使えばはるかにリスクが低いからだ。ブラウン教授は、もうひとつ重大な効果があるはずだと推測する。

教授が注目するのは、新鮮な体毛が持つにおいだ。一例として野鳥のオオヒタキモドキは、ヘビの抜け殻を巣に持ち込む習性をもつ。捕食者であるヘビのにおいを利用し、外敵を寄せつけないためだ。また、南アフリカに分布するアトリ科の小鳥の一部は、天敵のフンを巣に持ち込むことで同様の効果を得ている。シジュウカラについても、アライグマの体臭を利用して外敵を遠ざけている可能性がありそうだ。

もう1点、未確定ながら、寄生虫からの保護効果も指摘されている。米サイエンス・アラート誌は、一部の鳥類が防虫効果を持つ植物を巣に敷いていると紹介している。哺乳類の毛に同様の効果があるかは未解明だが、研究チームとしてもこうした例を含め、シジュウカラが複数のメリットを享受しているものとみている。

動画サイトが研究に貢献

野鳥が毛を盗むという行動は、これまでにも少ないながら目撃例があった。アメリカで数例が確認されているほか、オーストラリアでは花の蜜を吸って生きる野鳥のミツスイがコアラの体毛を拝借している。研究チームは調査にあたり、論文に著された事例をほかにも収集しようとしたが、その数は限定的だった。

意外にも研究を進展させたのは、ごくふつうの人々や野鳥愛好家などが撮影した動画であった。研究チームがYouTubeを検索すると、学術論文データベースから見つかった事例の9倍もの数をすぐに収集できたという。エサに夢中のアライグマの背中を狙う小鳥や、ウッドデッキで寝ているペットの犬から大量の毛をむしり取る野鳥の姿などが確認されている。大量の動画が集まる動画サイトは、研究のデータベースとしても打って付けだったようだ。

事例のなかには、人間がターゲットになっているものもあった。科学ニュースサイトのPhys.orgが取り上げた動画には、明らかに起きている女性の頭を狙う恐れ知らずの小鳥が収められている。初めは鳥との触れ合いを楽しんでいた女性も、何度も何度も毛を抜かれると痛みが勝つようになり、「もう十分取れた?」「私の毛が......」「部分的にハゲてしまいそう」と、動画を収録しながらも困惑した様子をみせている。

卵から孵るヒナのために暖かい巣を用意しようと、鳥たちも必死なのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中