最新記事

新型コロナウイルス

7000人もの医療関係者を五輪に確保し、「国民の重症者以外は自宅療養」の無責任

2021年8月5日(木)13時28分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
菅義偉

闇を彷徨う菅首相 Leon Neal/REUTERS

アメリカの論文では軽症者を隔離入院させないと感染が収まらないというデータが出ている。しかし日本は「重症者以外は自宅療養」という方針を出し、PCR検査も積極的でない。医療逼迫の現実をごまかしたいからだろう。

軽症者自宅待機の危険性、アメリカ医師会論文が早くから警鐘

2020年4月24日のコラム<軽症者自宅待機の危険性、アメリカ医師会論文が警鐘>に書いたように、4月10日のAmerican Medical Association(AMA=アメリカ医師会)がウェブサイトで出版している学術誌JAMAは、"Association of Public Health Interventions With the Epidemiology of the COVID-19 Outbreak in Wuhan, China"(中国武漢におけるCOVID-19 のアウトブレイク疫学に対する公衆衛生的介入による関連性)という論文(以下、論文)を掲載した。

論文は、武漢におけるコロナ患者に対する各時期の処置と効果の相関関係を分析している。

論文はまた、「武漢市も初期のころは軽症者に対する隔離治療を行っていなかったのだが、そのままでは感染拡大が収まらなかった。そこで軽症者を隔離病棟に入院させると、感染者数が急激に減少し始めた」という事実に目を向けて数理解析を行っている。

この事実を最初に指摘したのは中国の疫病学の最高権威者で、かつて江沢民国家主席に歯向かってSARSの蔓延を食い止めた経験を持つ中国工程院の鍾南山院士だ。彼は軽症者が突然重症化し、自宅待機で命を落とすケースを突き止めて、「方艙(ほうそう)病院」設営を提案した。

「方艙病院」とは野戦病院のような「臨時医療施設」のことで、鍾南山は武漢市にあるすべての体育館や集会所などを徹底的に利用して、次々と臨時医療施設を設営させ、軽症者を隔離入院させることによって武漢のコロナ感染を収束させた。

論文は 「軽症者の扱いが、その国のコロナ感染対策の分岐点になる」と指摘している。

日本は中等症患者までは「自宅療養」せよという指針

それだというのに、菅首相は軽症者どころか中等症のコロナ患者まで「自宅療養せよ」という、新たな方針を打ち出した。

行き当たりばったりのコロナ対策が招いた失敗を、結局は国民の命を犠牲にするという指針で尻拭いしようという無残な政策だ。

中等症患者は軽症者よりも一層「突然の病状悪化」で命を落とす危険をはらんでいる。おまけに急変した時に救急車を呼んでもたらい回しされるだけで、100件目にようやく受け入れてくれる病院が現れるという悲惨な状況だ。

自宅療養すれば、当然のことながら家族に移すという危険性も孕んでいる。

菅首相も少し前の記者会見で、「家族から移るのが一番多い」と言っているではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏製造業PMI、3月改定48.5に上昇 見通し厳し

ビジネス

欧州株STOXX600の予想引き下げ、米関税で=ゴ

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ワールド

ミャンマー地震の死者2719人と軍政トップ、「30
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中