キューバ「カリブの春」が独裁を打倒するのに、決定的に欠いているもの
Cuban Revolution via the Web
ある人は首都ハバナの公園からこう伝えてきた。「独裁政権はきっと私たちを1人ずつ追跡して捕まえる。公園にも当局の連中が見回りに来ている。どうか、私たちを見捨てないでくれ」
別のブロガーは南部サンティアゴ・デ・クーバから送信してきた。「全国でネットが遮断されている。SNSやウェブを利用するにはVPN(仮想プライベートネットワーク)が必要だ。まあ、想定内の展開だな。唯一の通信会社が国営なら、こうなる。これで明らかだろう、私たちは今、独裁制の下で暮らしているんだ」
米フロリダ州マイアミ在住で、革新的なデータ報道プロジェクト「インベンタリオ」に携わっている人からも連絡が来た。キューバ政府による抑圧を追跡し、ネット上の交信データを調べているのだが、今回の遮断措置によって現地の仲間と連絡が取れなくなったという。
それでも彼は、抗議デモが確認されたキューバ国内の現場約100カ所を示す対話型の地図を仲間と共に2日がかりで作成した。ネット接続が遮断される前に現地から投稿された多数の動画の集大成だ。
独裁的な国家は、いわゆる「アラブの春」を目撃して以来、米ノースカロライナ大学の社会学者ゼイネップ・トゥフェクチの言う「ネット接続された公共圏」の発展を阻止するため、陰険な対策の数々を用意してきた。
当局側もネット作戦を開始
インターネット経由の社会運動は、爆発的であると同時に脆弱でもある。明確な指揮系統を持つ組織構造を欠くので、活動家たちは脆弱なネットでつながっているにすぎない。体制側はそこに目を付け、インターネットの混沌と開放性と「自由な」特質を逆手に取るのだ。
いいかげんな情報や嘘っぽいニュースがネット上にあふれているのは周知の事実。だからキューバのような独裁国家は検閲のやり方を変えようと思い立った。反体制的なサイトや書き込みを摘発・排除する(当然、国際社会から非難を浴びる)代わりに、ネットを「無用の長物」に変えてしまう手を編み出した。
例えば、トゥフェクチによると「オンラインメディアに対する中傷攻撃、体制派を動員して偽情報をばらまく、詐欺や脅迫でネット空間を荒らす」などの手法だ。これで一般国民がネットを信用しなくなれば権力側の勝ちだ。
「情報の拡散を防ぎ、さらなる抗議行動を阻止する作戦にとどまらない。偽情報で人々を混乱させ、人々がネットに抱いていた希望や信頼を失わせる活動も含まれる」と言うのは、メキシコ在住のキューバ人ジャーナリスト、ホセ・ラウル・ガジェゴだ。いい例が最近ネット上に出現した「カマグエイ州が自由国家を宣言し、デモ隊が共産党の地方幹部を捕らえた。警官は制服を脱いでデモに加わっている」というデマだ。