最新記事

キューバ

キューバ「カリブの春」が独裁を打倒するのに、決定的に欠いているもの

Cuban Revolution via the Web

2021年7月22日(木)15時28分
テッド・ヘンケン(ニューヨーク市立大学准教授)

210727P38_QBA_02v2.jpg

当局に拘束されるデモ参加者(7月13日撮影のSNS画像) REUTERS

ちなみにキューバの活動家や独立系ジャーナリストは、フェイスブックよりもワッツアップやシグナル、テレグラムのようなアプリを使っている。通信内容が暗号化されているため、警察に傍受・妨害されにくいからだ。

キューバで携帯電話によるデータ通信が可能になったのは2018年12月のことだ。政府は「近代化」の証しとして導入したのだが、活動家たちは政府の思惑を超えて、これを「横のつながり」の道具として最大限に活用した。

結果、さまざまな市民運動が生まれ、全体主義体制の存続に不可欠な情報統制の2本柱(恐怖で国民を縛り、分断で国民の連帯を阻む)が損なわれた。米ワシントン・ポスト紙によれば、サービス開始からわずか半年で、220万もの国民がデータ通信の利用を始めていた。

一昨年にはLGBT(性的少数者)の権利拡大を求めるデモがあり、ゲーム好きの人が集まるネットワークSNETをつぶすなというデモも起きたが、いずれも呼び掛けはSNSを通じて行われた。

SNS運動に特定の指導者はいない

当時、独立系オンライン誌ユカバイトのノルヘス・ロドリゲスはワシントン・ポストにこう語っていた。当局は「参加者を拘束して指導者を捜したが無駄だった。SNS生まれの運動に、特定の指導者はいない」と。

言うまでもないが、ネットはキューバ国民と外部、とりわけ海外在住キューバ人との連携で重要な役割を果たす。しかし、もっと大事なのは国内で、市民の間に「横の情報伝達」を実現させる役割だ。

政府の目が届かないところで国民がつながるのは、全体主義国家にとっては由々しき事態。だから国営通信会社ETECSA(エテクサ)は今度も、ネット接続の遮断で対応した。ここ1年、何度も繰り返してきたことだ。

総人口1100万の4割に当たる420万人が携帯電話でネットを利用している現状からすれば、全体主義国家の当局としては当然の措置だろう。なにしろ昨年11月と今年1月には、文化省庁舎の前で若手アーティストや知識人による大規模で注目度抜群の抗議集会も起きていた。

今回の場合、しばらくは自宅や公共エリアのWi-Fiでアクセスできた人もいるようだが、11日午後4時すぎからの48時間は、全く携帯電話がつながらなかった。私自身、独立系ジャーナリストたちとの交信が途絶えた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中