キューバ「カリブの春」が独裁を打倒するのに、決定的に欠いているもの
Cuban Revolution via the Web
ちなみにキューバの活動家や独立系ジャーナリストは、フェイスブックよりもワッツアップやシグナル、テレグラムのようなアプリを使っている。通信内容が暗号化されているため、警察に傍受・妨害されにくいからだ。
キューバで携帯電話によるデータ通信が可能になったのは2018年12月のことだ。政府は「近代化」の証しとして導入したのだが、活動家たちは政府の思惑を超えて、これを「横のつながり」の道具として最大限に活用した。
結果、さまざまな市民運動が生まれ、全体主義体制の存続に不可欠な情報統制の2本柱(恐怖で国民を縛り、分断で国民の連帯を阻む)が損なわれた。米ワシントン・ポスト紙によれば、サービス開始からわずか半年で、220万もの国民がデータ通信の利用を始めていた。
一昨年にはLGBT(性的少数者)の権利拡大を求めるデモがあり、ゲーム好きの人が集まるネットワークSNETをつぶすなというデモも起きたが、いずれも呼び掛けはSNSを通じて行われた。
SNS運動に特定の指導者はいない
当時、独立系オンライン誌ユカバイトのノルヘス・ロドリゲスはワシントン・ポストにこう語っていた。当局は「参加者を拘束して指導者を捜したが無駄だった。SNS生まれの運動に、特定の指導者はいない」と。
言うまでもないが、ネットはキューバ国民と外部、とりわけ海外在住キューバ人との連携で重要な役割を果たす。しかし、もっと大事なのは国内で、市民の間に「横の情報伝達」を実現させる役割だ。
政府の目が届かないところで国民がつながるのは、全体主義国家にとっては由々しき事態。だから国営通信会社ETECSA(エテクサ)は今度も、ネット接続の遮断で対応した。ここ1年、何度も繰り返してきたことだ。
総人口1100万の4割に当たる420万人が携帯電話でネットを利用している現状からすれば、全体主義国家の当局としては当然の措置だろう。なにしろ昨年11月と今年1月には、文化省庁舎の前で若手アーティストや知識人による大規模で注目度抜群の抗議集会も起きていた。
今回の場合、しばらくは自宅や公共エリアのWi-Fiでアクセスできた人もいるようだが、11日午後4時すぎからの48時間は、全く携帯電話がつながらなかった。私自身、独立系ジャーナリストたちとの交信が途絶えた。