インドネシア政府、コロナ規制強化策を5日間延長へ 抜本的対策なく国民に不信感
7月20日に行われたイスラム教の伝統的重要行事である「犠牲祭」は、牛や羊を屠り犠牲となったその肉を近隣住民が分かち合うという宗教行事だが、各地で閉鎖が求められているイスラム教の宗教施設である「モスク」やその周辺で多くのイスラム教徒が集まり、犠牲祭を祝う行事に参列する様子がみられた。
行き過ぎる取締りに反発も
こうした規制違反に対し、州政府などは警察官だけでなく軍兵士、地方政府警備員なども動員して摘発を強化している。
ところがティト・カルナファン内務相は、規制違反を取り締まる「自治体警備隊(SatpolPP)」と呼ばれる警備隊員に対して「決して暴力的、高圧的姿勢をとってはならない」と注意喚起する事態となっている
それというのも「SatpolPP」と呼ばれる人々は州政府などの公共機関から依頼を受けて市中の規制違反者の発見、警告、摘発を主に行う人々。
揃いの制服を着て、違反者に対して高圧的な姿勢で臨んでいる、として批判が絶えない。彼らの巡回や摘発に際しては警察官や兵士が同行していることが多く、「権威を借りて偉そうに振る舞う」と悪評、反発が強くなっている。
人権団体の「犯罪正義改革委員会(ICJR)」は、規制違反は刑法犯として摘発されるが、その適用範囲が不明確で摘発に際しては人権に対する違反の事例もある、として治安当局に適正な摘発を徹底するよう求める事態となっている。
今後の方針は不明確
インドネシア政府は「緊急大衆活動制限」を25日までの延長を決めたものの、26日以降の感染防止対策の具体的な展望を示していない。
各種の感染防止対策への政府予算の追加配分、ワクチン接種の促進と徹底などの対策を講じているが、26日以降に現在の厳しい規制を解除あるいは緩和できる状況にはないのが現実だ。
インドネシアのコロナ感染状況は7月20日現在、感染者295万50人、死者7万6200人と東南アジアで最悪を記録し続けている。
政府が積極的に国民に進めているワクチン接種だが、中国製ワクチンへの不信感も高まっている。接種開始直後に優先的に接種を受けた医療関係者の間で感染、死者が出たためで、中国製ワクチンの「有効性、安全性」へ疑問符が突きつけられたのだ。
こうした状況にジョコ・ウィドド政権は国民には中国製ワクチン接種を進める一方で、既に中国製ワクチンを接種した医療関係者に3回目の接種として、英アストラゼネカ社製ワクチンや最近、緊急使用を認可した米ファイザー社製ワクチンによる"ブースター接種"を進めることを明らかにしている。
こうしたワクチンをめぐる問題も浮上するなか、ひとまず「規制延長」を決めたものの、根本的な感染防止対策を国民に具体的に示せず、不透明さばかりが浮き彫りとなっているジョコ・ウィドド政権、州政府などへ、国民の不満や不信感が広がりつつある、というのがインドネシアの現状だ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など