最新記事

パンデミック

インドネシア政府、コロナ規制強化策を5日間延長へ 抜本的対策なく国民に不信感

2021年7月21日(水)18時15分
大塚智彦

7月20日に行われたイスラム教の伝統的重要行事である「犠牲祭」は、牛や羊を屠り犠牲となったその肉を近隣住民が分かち合うという宗教行事だが、各地で閉鎖が求められているイスラム教の宗教施設である「モスク」やその周辺で多くのイスラム教徒が集まり、犠牲祭を祝う行事に参列する様子がみられた。

行き過ぎる取締りに反発も

こうした規制違反に対し、州政府などは警察官だけでなく軍兵士、地方政府警備員なども動員して摘発を強化している。

ところがティト・カルナファン内務相は、規制違反を取り締まる「自治体警備隊(SatpolPP)」と呼ばれる警備隊員に対して「決して暴力的、高圧的姿勢をとってはならない」と注意喚起する事態となっている

それというのも「SatpolPP」と呼ばれる人々は州政府などの公共機関から依頼を受けて市中の規制違反者の発見、警告、摘発を主に行う人々。

揃いの制服を着て、違反者に対して高圧的な姿勢で臨んでいる、として批判が絶えない。彼らの巡回や摘発に際しては警察官や兵士が同行していることが多く、「権威を借りて偉そうに振る舞う」と悪評、反発が強くなっている。

人権団体の「犯罪正義改革委員会(ICJR)」は、規制違反は刑法犯として摘発されるが、その適用範囲が不明確で摘発に際しては人権に対する違反の事例もある、として治安当局に適正な摘発を徹底するよう求める事態となっている。

今後の方針は不明確

インドネシア政府は「緊急大衆活動制限」を25日までの延長を決めたものの、26日以降の感染防止対策の具体的な展望を示していない。

各種の感染防止対策への政府予算の追加配分、ワクチン接種の促進と徹底などの対策を講じているが、26日以降に現在の厳しい規制を解除あるいは緩和できる状況にはないのが現実だ。

インドネシアのコロナ感染状況は7月20日現在、感染者295万50人、死者7万6200人と東南アジアで最悪を記録し続けている。

政府が積極的に国民に進めているワクチン接種だが、中国製ワクチンへの不信感も高まっている。接種開始直後に優先的に接種を受けた医療関係者の間で感染、死者が出たためで、中国製ワクチンの「有効性、安全性」へ疑問符が突きつけられたのだ。

こうした状況にジョコ・ウィドド政権は国民には中国製ワクチン接種を進める一方で、既に中国製ワクチンを接種した医療関係者に3回目の接種として、英アストラゼネカ社製ワクチンや最近、緊急使用を認可した米ファイザー社製ワクチンによる"ブースター接種"を進めることを明らかにしている。

こうしたワクチンをめぐる問題も浮上するなか、ひとまず「規制延長」を決めたものの、根本的な感染防止対策を国民に具体的に示せず、不透明さばかりが浮き彫りとなっているジョコ・ウィドド政権、州政府などへ、国民の不満や不信感が広がりつつある、というのがインドネシアの現状だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中