最新記事

香港

香港は中国で最も腐敗した都市になる

KILLING HONG KONG

2021年7月16日(金)21時00分
許田波(ビクトリア・ホイ、米ノートルダム大学政治学准教授)
香港、警察

中国共産党100周年となった7月1日、香港では抗議集会が禁じられた(2021年7月1日) TYRONE SIU-REUTERS

<国家安全維持法の導入から1年がたち、香港は警察都市に変わってしまった。かつては1人の政治犯もいなかったが、今は無数の民主活動家が獄につながれている>

中国政府が香港に鉄拳支配を確立するのは不可能だ。ただし、あそこを破壊するなら話は別だ──筆者は2019年にそう書いた。あれから2年、中国政府は本気で香港を破壊し、あの「抵抗都市」を服従させようとしている。手段を選ばずに。

1年前の6月30日(香港「返還」23周年の前夜だった)、中国政府は香港に国家安全維持法(国安法)を適用した。

正しくは「体制維持法」と呼ぶべきだろうが、要は「国家分裂の策動や反政府行為、テロや外国勢力との共謀」を「予防・阻止・処罰」するための法律だが、どの文言も曖昧で、いかなる反体制活動も処罰の対象となり得る。

香港の国家安全警察は国安法を根拠に、2021年6月29日までに117人を逮捕、64人を起訴した。1件目の唐英杰の裁判は陪審員なしで進められており、国安法の下で中央政府の選定した判事が審理を仕切る。有罪判決は避け難く、しかも刑は軽くて禁錮3年、最悪は終身刑。そこには法治主義のかけらもない。

国安法は、2年前に香港市民が爆発させた怒りと不満に対する中国政府の答えだ。あのとき市民は、香港警察に逮捕された容疑者の身柄を本土の警察に引き渡せるようにする条例案(逃亡犯条例改正案)に体を張って抵抗し、その成立を阻んだ。

そこで中国政府は考えた。ならばこちらの秘密警察と公安職員を香港に送り込み、現地で反体制派を捕らえればいいと。

香港の基本法(憲法に準ずる法律)には「中央政府のいかなる機関も香港特別行政区の業務に干渉しない」と定められているが、中国政府はこれを無視し、基本法を実質的に無効化した。

国安法の下で、香港には現地の公務員を「指導・監督・管理」するための国家安全維持公署が設置され、米ドル換算で10億ドルを超す予算が割り当てられた。ちなみに、その本部とするために接収された高級ホテルのある銅鑼湾地区は、それまで抗議デモの中心地だった。

国安法施行の前年にも、香港警察は逃亡犯条例改正案への抗議デモ関連で9000人以上を逮捕していた。また昨年からは新型コロナウイルスの感染予防を名目に、あらゆるデモ行進の申請を却下している。

それでも民主派は、街頭デモ以外の抗議手段を模索した。例えば2019年11月24日に行われた区議会選挙では、民主派の候補者が得票数の57%を獲得し、452議席中391議席を確保した。

彼らは昨年9月に予定されていた立法会選挙(定数70議席)でも過半数の確保を目指し、候補者を絞り込む予備選挙の準備を進めていた。医者や看護師、公務員や教員らによる労働組合の結成も相次いだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウルグアイ大統領選、左派の野党候補オルシ氏が勝利 

ワールド

英国の労働環境は欧州最悪レベル、激務や自主性制限で

ビジネス

中国人民銀、1年物MLFで9000億元供給 金利2

ワールド

EU、対米貿易摩擦再燃なら対応用意 トランプ政権次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中