最新記事

香港

香港は中国で最も腐敗した都市になる

KILLING HONG KONG

2021年7月16日(金)21時00分
許田波(ビクトリア・ホイ、米ノートルダム大学政治学准教授)

magSR20210716killinghongkong-1.jpg

警察国家と化した香港で警察官が通行人を身体検査(2021年6月) LAM YIK-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

しかし国安法の真の標的は、こうした非暴力の抵抗運動だった。中央政府の香港マカオ事務弁公室は民主派勢力の予備選挙を、「香港を(外国からの)介入と転覆活動の拠点とするための策動」だと非難した。香港連絡弁公室の駱恵寧(ルオ・ホイニン)主任も、野党が議会で「多数派となる」のは絶対に許せないと述べていた。

当然、2019年8月5日のゼネストも「『一国二制度』の根幹を揺るがす」ものと指弾された。

なぜ中国政府は、選挙や組合結成の活動を安全保障上の脅威と見なすのか。香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)に言わせれば、当局に従わない勢力は全て「人民の敵」と見なされるからだ。

著名なジャーナリストの程翔(チョン・シアン)によると、民主派を根絶するという方針は昔からあった。国務院香港マカオ事務弁公室の主任だった張暁明(チャン・シアオミン)も、民主派を「死に追いやる」ことが中央政府の究極的な方針だと言い切っている。

【関連記事】香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っている

弾圧強化の分水嶺は2014年

中国政府は2014年に、香港に対する「包括的な管轄権」を強化する決意を正式表明した。当時、張は民主派議員に向かって「あなた方がまだ生きていられるのは中央政府の忍耐のおかげだ」と述べている。

また「真の普通選挙権」を求めた2014年の雨傘運動を受けて、香港マカオ事務弁公室の副主任だった陳佐洱(チェン・ツオアル)は「香港に災厄をもたらす勢力に対する長期の闘争」を宣言して、戦線を「街頭から法廷へ、立法会へ、行政府内部へ、大学へ、中等教育機関へ」と拡大させた。

国安法は中国政府の目標を達成する最終手段だ。まず標的とされたのは蘋果日報(アップル・デイリー)発行人の黎智英(ジミー・ライ)だった。

昨年8月10 日に、警察が本社に乗り込んで黎と息子2人と幹部4人を逮捕。今年4月には黎に禁錮刑の判決が下された。5月17 日には黎の資産6400万ドル相当が凍結された(その後、6月末に蘋果日報は事実上の廃刊に追い込まれた)。

民主派のシンボルで若き「女神」とも称された周庭(アグネス・チョウ)も逮捕され、禁錮刑に処された(刑期半ばで釈放されたが、その後は沈黙を強いられている)。

最大の弾圧の波は今年1月6日に来た。昨年の立法会民主派予備選の関係者53人を一斉逮捕。うち47人は2月末に起訴された。

民主派の票が割れないようにするための予備選が「国家・政権転覆」共謀の罪に問われたのだ。国際的に名を知られる黄之鋒(ジョシュア・ウォン)のような人物も身柄を拘束された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中