最新記事

中米

ギャング抗争、大統領暗殺、コレラとコロナ──海図なき漂流国家ハイチ

No One’s Really in Charge

2021年7月12日(月)17時45分
ジョシュア・キーティング(スレート誌記者)
ハイチ大統領邸宅前

モイーズの暗殺で政治的混乱に拍車が(事件当日の大統領邸宅前) AP/AFLO

<自然災害と人災で治安もインフラもズタズタに。暗殺された大統領の後任はコロナで死亡、暫定首相は近く退任予定で、民主主義も機能停止状態だ>

7月7日朝、ハイチの首都ポルトープランス在住のハイチ人ジャーナリスト、モニーク・クレスカにワッツアップで連絡を取り、「街は静かなのか」と聞いた。

「静かどころじゃない。(2010年の)地震の直後以降、こんなに静まり返ったのは初めて。車1台、バイク1台走っていない。通行人がいたとしても、その気配もない」

静かであっても平穏とは限らない。ハイチは今、息を潜めて答えを待っている。ジョブネル・モイーズ大統領の暗殺で今後どうなるのか。

モイーズは現地時間の7日午前1時頃、就寝中に正体不明の武装グループに銃撃され死亡した。妻も撃たれて重傷を負いマイアミの病院に搬送された。ポルトープランスの米大使館は「現下の治安状況に鑑みて」閉鎖。同じ島に位置し、ハイチとは過去に敵対関係にあったドミニカ共和国もすぐさま国境を閉鎖した。

大統領の自宅は厳重に警備されていたはず。そこに押し入ったとすれば犯人一味はプロ集団だろう。「明らかに資金もあり、(政権中枢に)コネがある連中の仕業」だと、クレスカはみる。

事件直後、ハイチのクロード・ジョセフ暫定首相は、一味の中にスペイン語と英語を話す者がいたと発表。外国の傭兵の犯行が疑われている(ハイチの公用語はフランス語とクレオール語だ)。

マイアミ・ヘラルドによると、襲撃を近隣住民が撮影した動画では「米取締当局の捜査の一環だ!」と、男が拡声器を使って英語で叫んでいた。もちろん事実かどうかは不明だ(バイデン政権はアメリカの関与を否定)。

その後ハイチの治安当局は一味の仲間を拘束ないし射殺したと発表したが、事件の全容は明らかになっていない。

後任をめぐるドタバタ

モイーズが敵に事欠かなかったのは確かだ。元バナナ輸出業者のモイーズ(享年53)は2017年の大統領就任早々から、退陣を求めるデモに手を焼いてきた。抗議が高まったきっかけは「ペトロカリブ」疑惑。ベネズエラがカリブ海諸国に優遇的に石油を提供する枠組みの資金20億ドルを、ハイチ政府が不正使用した疑いが浮上したのだ。

ハイチは地震、ハリケーン、国連の平和維持部隊が持ち込んだコレラの大流行など自然災害と人災に見舞われ、インフラも農業部門もズタズタになっている。ペトロカリブの資金はその再建に使われるはずだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中