大村博士発見のイベルメクチンは新型コロナの「奇跡の治療薬」? 海外で評価割れる
感染拡大地域では「奇跡の薬」として品薄が起きているイベルメクチン REUTERS/Benoit Tessier
<抗寄生虫薬からコロナ治療への転用が期待されるイベルメクチン。感染拡大地域では「奇跡の薬」として品薄が起きる一方、欧米では以前効果が吹聴されたマラリア薬の二の轍を踏むことになるのではないかという慎重姿勢も目立つ>
新たなコロナ治療薬として、既存の抗寄生虫薬「イベルメクチン」が期待されている。国内では製薬大手の興和が7月1日、新型コロナ感染者を対象とした治験を開始すると発表した。興和は軽症者1000人程度までの規模の治験を年内にも完了し、厚生労働省に承認を求めたいとしている。
イベルメクチンはこれまで南アフリカおよびラテンアメリカの一部の国々において、コロナ治療目的で使用されてきた。しかし、コロナへの効果を測定する大規模な治験はいずれの国でも行われておらず、効果の有無が議論の的となっている。
医薬または市販薬として世界各国で容易に入手することができることから、海外では一部医療関係者が「奇跡の治療薬」と述べるなど、高い期待を示している。一方、WHOは「結論に至っていない」と冷静な立場だ。
日本の大村智博士が開発に寄与
イベルメクチンは、北里大学で特別栄誉教授を務める大村智博士が開発に貢献している。1970年代、北里研究所で研究を行っていた博士は、土壌中で菌糸を放出する放線菌の一種から、化合物「エバーメクチン」の抽出に成功する。寄生虫などの神経に強く作用し、強力な殺虫効果を発揮する一方、ヒトの神経にはほとんど影響しない。高い駆除効果とヒトへの安全性を両立しているのが特徴だ。
このエバーメクチンをもとに、研究資金の提供などで契約を結んでいた米製薬会社のメルクが改良を施し、抗寄生虫薬のイベルメクチンとして商品化した。畜産など動物の線虫駆除に絶大な効果を示すほか、ヒト用の寄生虫駆除にも用いられている。2015年にはその功績を称え、大村博士とメルク社の元共同研究者に対してノーベル生理学・医学賞が授与された。
イギリスでも治験へ
現在イベルメクチンは、海外でもコロナへの応用が期待されている。イギリスではオックスフォード大学の研究者たちが、通常の治療法と成果を比較する臨床試験に入った。英BBCは、研究チームがイベルメクチンの「世界中で容易に入手できる」性質に注目し、治験の対象に選択したと報じている。原則として人体に対してほぼ無害であるという特性も選択の決め手となった。
治験以外にもすでに、イベルメクチンを投与した患者が回復傾向を示すケースは出ている。しかし、これは大規模な治験による信頼性とは異なるものだ。すでにイベルメクチンを投与されている患者が調査の母集団となってしまうことから、投与を希望する人々の特性などが影響し、サンプルが偏っている可能性を排除することができない。
治験による正式なデータを経て、容易に手配可能なイベルメクチンの効果が確認されたならば、病床を占有しない自宅での投薬治療にも光が差す。コロナ治療のあり方を大きく変える可能性を秘めている。