大村博士発見のイベルメクチンは新型コロナの「奇跡の治療薬」? 海外で評価割れる
アメリカでは慎重論も
イギリス以外では、アメリカもイベルメクチンに期待を寄せる国のひとつだ。現在FDA(米食品医薬品局)はコロナ治療で利用を承認していないが、個人の選択において適応外使用が行われている。効果を得られたとの声がある一方、昨年からの騒動の二の舞にならないかと慎重な姿勢を示す市民もいるようだ。
トランプ大統領(当時)は昨年、抗マラリア薬の「ヒドロキシクロロキン」がコロナ治療に絶大な効果を持つとして使用を推奨していた。ところが今年3月になるとWHOが、この目的で使用しないよう「強く勧告する」という真逆の立場を発表した。ワシントン・ポスト紙によると、是非をめぐる論争は今年に入っても続いているようだ。6月には共和党の上院議員がヒドロキシクロロキンとイベルメクチンがコロナ治療に有効だとする動画をYouTubeに投稿し、アカウントの一時凍結措置を受けた。
WHO、FDA、米感染症学会のいずれもが、現段階では治験を除き、イベルメクチンをコロナに適用しないよう勧告している。米NBC系列のアトランタ局「WXIA-TV」は、医学博士号を持つスジャータ・レディー同局記者の見解として、適応外使用は危険であると伝えている。比較的安全なイベルメクチンだが、博士は血液凝固剤などの薬と薬物相互作用を起こす可能性があるほか、過剰摂取による嘔吐や昏睡などの危険があると指摘する。また、ワクチンと同等の効果が得られる内服薬は存在しないとも博士は指摘し、仮にイベルメクチンが治療薬になり得たとしても予防薬ではないと注意喚起している。
アジアでは需要急伸
慎重論も根強い欧米とは対照的に、アジアではその高い効果に注目が集まり、一部地域では需要が殺到している。香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は、東南アジア地域の一部医療関係者が「奇跡の治療薬」と称賛しているほどだと報じる。一例としてインドネシアでは、有力政治家らがイベルメクチンの効果を認める発言をして以来、街の薬局やネット販売店などで入手困難な状況が続いているという。
インドネシア以外でも、マレーシア、フィリピン、インドなどで適応外使用が進む。感染者の急激な増加を受け、各種医療団体が緊急手段として使用を推進している形だ。また、有効な治療法と十分なワクチンを用意できないなかで民衆の不満を逸らすため、政治的に利用されているという指摘も出ている。
すぐ隣のマレーシアでも、特効薬としての期待が非常に高い。マレーシア政府は現時点でイベルメクチンによるコロナ治療を承認していないが、人々は承認を熱望するあまり、政治的な陰謀によって承認が保留されているとの陰謀論まで登場した。説の支持者たちは、政府はパンデミックを長引かせることで選挙の延期を図っているのだと主張している。
現時点ではさまざまな立場から議論が行われているが、日本とイギリスで行われる治験により、科学的なデータに基づく判断が可能になることだろう。効果が確認されれば、万一の感染時の治療のあり方は大きく変容するのかもしれない。