EU議長国にスロベニア 対立する右派首相で「東西分断」加速の恐れも
欧州連合(EU)の議長国が7月1日、ポルトガルからスロベニアに交代する。民主主義の基本的諸価値を巡って東欧と西欧の加盟国間に緊張が走っている中で、よりによってスロベニア首相の地位にあるのが民主主義について欧州委員会と舌戦を繰り広げてきた右派ナショナリストのヤネス・ヤンシャ氏(写真)という回り合わせになった。6月25日、ブリュッセルで代表撮影(2021年 ロイター/Olivier Matthys)
欧州連合(EU)の議長国が7月1日、ポルトガルからスロベニアに交代する。民主主義の基本的諸価値を巡って東欧と西欧の加盟国間に緊張が走っている中で、よりによってスロベニア首相の地位にあるのが民主主義について欧州委員会と舌戦を繰り広げてきた右派ナショナリストのヤネス・ヤンシャ氏という回り合わせになった。
62歳のヤンシャ氏はトランプ前米大統領を尊敬しており、トランプ氏のようなツイッターにおける歯に衣着せぬ発言を通じ、報道の自由の問題などでEUと衝突してきた。ヤンシャ氏はハンガリーのオルバン首相とも親しい。そのオルバン氏は6月24日のEU首脳会議で、ハンガリーが制定した法律に対する批判が相次いだことから、西欧諸国との不協和音が最高潮に達した。この法律は、学校で性的少数者(LGBT)の受け入れを促進するとみなされる教材の使用を禁じる内容だ。
こうした面から、スロベニアのEU議長就任はEU内で共通の価値を巡る亀裂が広がりつつある現状を照らし出すことになるかもしれない。実際西欧諸国は、強権的な東欧指導者が連帯を強化している構図を懸念しながら見守っている。
先週の首脳会議でもヤンシャ氏とポーランドの首相だけがハンガリーの反LGBT法を支持し、フランスのマクロン大統領は根本的な「東西の分断」と率直に表現。「これは単にオルバン氏の問題ではなく、もっと根が深い」と語った。
一方ヤンシャ氏は首脳会議での反LGBT法の議論について記者団に、「時には非常に白熱した真剣な意見交換」だったが、さまざまな事実が明確になると冷静な雰囲気に戻ったと説明した。
その上でヤンシャ氏は、この問題が欧州にとって不要な新しい分断をもたらすと思っていないと強調するとともに「スロベニアや他の多くの国は欧州で新たな分裂を策する勢力に属したくはない。分裂はもう十分に味わった。われわれがEUに加わったのは、分裂ではなく統合するためだ」と述べた。
東欧同盟
ただ研究者の間からは、法の支配や人権、報道の自由、LGBTの権利といったEUの基本的諸価値に反する立場に基づいた「東欧同盟」が出現してきたとの見方が出ている。
リュブリャナ大学のマルコ・ミロサブリェビッチ教授(ジャーナリズム・メディア政策)は「この同盟全体としての態度は非常に反EU的だと思う。新しい鉄のカーテンのようなものが築かれた兆しを示している」と指摘した。