最新記事

現代史

複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史

2021年7月1日(木)17時15分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン94より転載

私が記憶する最も古い新聞記事は、1979年12月24日のソ連によるアフガニスタン侵攻で、これは小学1年生の頃だったはずだが、当日だったのか時間が経ってからか定かな記憶がないが、小学校で担任の教師が「今日の新聞に何が載っていましたか?」と質問すると、いつもこまっしゃくれていて、何かと他人にからかいの声を浴びせ、嫌がらせを繰り出してくる特に親しくない同級生が「ソ連がアフガニスタンに入ったんだよ」と即座に答えたのを覚えている。

私としてはあらゆることに一旦呼吸を置いて考えるタイプであり、知っていると思ってすぐに手を挙げて答えるような子供ではなく、ただ「なぜ『入った』なのだろう」と不思議に思い、印象に残っていた。

冷戦対決の中で、新聞は中立を標榜するか、あるいは当時はあからさまに心情的に東側寄りの姿勢を取ることもあったため、ソ連のアフガニスタン侵攻を「侵略」と価値判断することは避けようとするが故に、「入った」という曖昧な表現を用いたのかと思うに至ったのはかなり後の方であるが、それぐらい印象に残って考え続けていたのだろう。

そもそも小学一年生が新聞の一面を読めるはずがない。ラジオから流れるニュースを聞き、親が話しているのも聞いたのかもしれない。同世代の経験として、中東やイスラーム世界が国際社会における「問題」の源であるという印象が自然に植えつけられる条件はあったのではないか。

※第2回:前世代の先輩たちがいつの間にか姿を消していった──氷河期世代と世代論 に続く


池内 恵(Satoshi Ikeuchi)
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター准教授、アレクサンドリア大学(エジプト)客員教授などを経て、現職。専門はアラブ研究。著書に、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『[中東大混迷を解く]サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』『[中東大混迷を解く]シーア派とスンニ派』(ともに新潮社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など多数。

※当記事は「アステイオン94」からの転載記事です。
asteionlogo200.jpg


アステイオン94
 特集「再び『今、何が問題か』」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-台湾、米関税対応で27億米ドルの支援策 貿易

ビジネス

米雇用統計、3月雇用者数22.8万人増で予想大幅に

ビジネス

中国が報復措置、全ての米国製品に34%の追加関税 

ビジネス

世界食料価格、3月前年比+6.9% 植物油が大幅上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 8
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 9
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 10
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中