複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史
私が記憶する最も古い新聞記事は、1979年12月24日のソ連によるアフガニスタン侵攻で、これは小学1年生の頃だったはずだが、当日だったのか時間が経ってからか定かな記憶がないが、小学校で担任の教師が「今日の新聞に何が載っていましたか?」と質問すると、いつもこまっしゃくれていて、何かと他人にからかいの声を浴びせ、嫌がらせを繰り出してくる特に親しくない同級生が「ソ連がアフガニスタンに入ったんだよ」と即座に答えたのを覚えている。
私としてはあらゆることに一旦呼吸を置いて考えるタイプであり、知っていると思ってすぐに手を挙げて答えるような子供ではなく、ただ「なぜ『入った』なのだろう」と不思議に思い、印象に残っていた。
冷戦対決の中で、新聞は中立を標榜するか、あるいは当時はあからさまに心情的に東側寄りの姿勢を取ることもあったため、ソ連のアフガニスタン侵攻を「侵略」と価値判断することは避けようとするが故に、「入った」という曖昧な表現を用いたのかと思うに至ったのはかなり後の方であるが、それぐらい印象に残って考え続けていたのだろう。
そもそも小学一年生が新聞の一面を読めるはずがない。ラジオから流れるニュースを聞き、親が話しているのも聞いたのかもしれない。同世代の経験として、中東やイスラーム世界が国際社会における「問題」の源であるという印象が自然に植えつけられる条件はあったのではないか。
※第2回:前世代の先輩たちがいつの間にか姿を消していった──氷河期世代と世代論 に続く
池内 恵(Satoshi Ikeuchi)
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター准教授、アレクサンドリア大学(エジプト)客員教授などを経て、現職。専門はアラブ研究。著書に、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『[中東大混迷を解く]サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』『[中東大混迷を解く]シーア派とスンニ派』(ともに新潮社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など多数。
『アステイオン94』
特集「再び『今、何が問題か』」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
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