最新記事

現代史

複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史

2021年7月1日(木)17時15分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン94より転載

「中東問題」の世代論

ここまでは現代史の歴史認識・時代区分の若干の修正を提起する議論を試みたが、この後は少しばかりの「自分語り」をお許しいただきたい。

冒頭に記した「中東中心史観」とも言える現代史の叙述の流れ、すなわち1991年の湾岸戦争を現代史の起点とみなし、それ以後の歴史の中で2001年の9・11事件を最重要の曲がり角と捉え、2011年の「アラブの春」を契機にした中東地域の秩序変動を見届けながら、そこからグローバルな国際秩序の弛緩や改変の予兆を見出す、さらには、前近代の秩序への部分的な回帰を含む、新たな国際秩序の出現を展望しようとする視点は、私個人の、あるいは私の属する世代の経験を多分に反映している。

私個人にとっては、1991年の湾岸戦争を、進路をぼんやりと考える高校2年生として体験したことが、大学に入ってから中東・イスラーム研究を専攻に選ぶ遠因となったというかなり平凡な経緯を、今から振り返ると認めざるを得ない。

2001年の9・11事件は、イスラーム政治思想という、それまでは日本ではかなり周辺的で、趣味的な課題と見られがちだったものが、現代の国際政治に直接的・死活的に影響を及ぼすものとして認識されたことから、私自身が公的な場で発言を求められる書き手として存在することを可能にした。2011年の「アラブの春」はさらに中東問題への社会的・経済的関心を高めた。2001年以後の20年間は、文字通り休む暇もなかったというのが正直なところである。

しかし考えてみれば私が生まれた1973年はオイルショックの年であり、日本で中東という地域の戦略的重要性が広く認識された最初の事件が起きた年と言ってもいい。生まれ年というものが個人の、あるいは世代の意識に影響を与えるかは実証しにくい問題だが、ニュースが今よりずっと一元化されていた時代において、自分の生まれ年に結びつけてたびたび語られる事件・事象に関心を持ちやすいということはあるのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイ国際空港、2024年の利用者は過去最多の92

ワールド

民間機近くの軍用ヘリ飛行を疑問視、米上院議員 空中

ワールド

ロシアの穀物輸出、EUの船舶制裁が圧迫 中銀が報告

ビジネス

大阪製鉄が自社株TOBを実施、親会社の日本製鉄が応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中