ニューヨークの新名所「リトルアイランド」の素晴らしさと、厳しい現実
The Big Problem With Little Island

チューリップ形の支柱が並んだ構造が目を引くリトルアイランドは都会の中のオアシス的な楽しさが魅力だが MICHAEL GRIMM
<市民の憩いの場は、資金も運営も民間の「善意」が頼り。過密都市ニューヨークのジレンマが浮き彫りに>
ニューヨークでも特に目を引く2つの新名所はどちらもイギリスのデザイナー、トーマス・ヘザーウィックの作品だ。銅色の鋼鉄で覆われた高さ約45メートルの展望台「ベッセル」は2019年に、ハドソン川に浮かぶ水上公園「リトルアイランド」は今年5月にそれぞれオープンした。
ベッセルは世界でもまれに見る大失敗に終わった。総工費2億ドル。多数の階段で構成された蜂の巣状の構造が特徴で、ニューヨークの再開発プロジェクト「ハドソン・ヤード」の目玉になるはずだった。
ところが実際は、周囲が殺風景で最上階からの眺めも地上からと変わらなかった。車椅子利用者にはひどく不便で、ベース部分の段に座ろうとすると警備員に止められた。
隣のオフィスビルはコロナ禍で閑散とし、ベッセルは自殺の名所に。約1年で3人目の自殺者が出たのを受けて、今年1月に一旦閉鎖された(その後、自殺予防策を講じて5月末に再開)。
その頃には世間の注目はリトルアイランドに移っていた。5月21日にオープンした水上公園を支えるのは、同じくヘザーウィックが手掛けた12年ロンドン五輪の聖火台を思わせる、チューリップ形のコンクリート製支柱132本。奇跡のような構造は岸から見て壮観だが、公園の魅力はもっとシンプルな楽しさにある。
すべては大富豪バリー・ディラーのおかげ
約1ヘクタールの敷地は急傾斜のスロープで細かく仕切られ、探検にぴったり。アメリカの造園家シグネ・ニールセンが手掛けた緑豊かな庭園には、車椅子も通れる小道が走る(岩でできた近道は子供たちが大喜びしそうだ)。
ほとんどの訪問者は高台や展望台に向かうが、イチオシは円形劇場。木製ベンチが並び、街の喧噪を忘れてくつろげる。トイレも市内の公共施設では指折りの快適さだ。
全ては最大のスポンサーであるメディア王バリー・ディラーのおかげだ。ディラーは建設費として2億6000万ドル、さらに今後20年の維持費も負担した。大失敗したハドソン・ヤードとベッセルのスポンサーも、やはり大富豪のスティーブン・ロスだ。
個人の富は無限にあり、公共機関のできることには限りがある時代に、公益事業で最善の成果を上げるには博愛主義者をその気にさせるのが一番かもしれない。ハドソン川に水上公園を造ろうと思ったら、以前はイベントで資金を調達する必要があった。ディラーはその資金を、いやそれ以上のものをもたらした。