最新記事

公園

ニューヨークの新名所「リトルアイランド」の素晴らしさと、厳しい現実

The Big Problem With Little Island

2021年6月25日(金)17時59分
ヘンリー・グラバー

210629P51_LID_03.jpg

鳴り物入りで誕生したベッセルは自殺者が相次ぐ「事故物件」に BRENDAN MCDERMIDーREUTERS

そもそも、この見事な水上公園はニューヨークの「必需品」というわけではなかっただろう。既に近隣は豪華スポットだらけ、観光名所は大混雑、ウオーターフロントは身動きが取れない混みようなのだから。

リトルアイランドは、個人慈善家の主導がなければ実現しなかった。公立公園民営化の手本とも言うべきものだ。

セントラルパークなどニューヨークの象徴的な緑地は、近隣の土地所有者や民間の有力者が出資する地元団体が運営している。

このシステムはニューヨークで公園が麻薬常用者のたまり場になっていた時代に生まれた。土地所有者が自腹を切って公園の警備と衛生管理と文化イベントの開催企画を引き受けるなら、資金難の市が拒否するわけがないという理屈は、当時は至極もっともだった。

こうしたモデルは他都市でも人気だ。シカゴのミレニアムパークやダラスのクライド・ワーレンパークは大口の寄付で建設費を賄った。

民営化に潜む落とし穴

破壊的な長期的影響も懸念される。都市の目玉となる公園に民間資金が流れ込む一方で、市民は地方税の支払いに否定的になり、富める地区と貧しい地区の公共空間の格差が拡大し、最後は行政に頼るしかなくなる。同時に、慈善家に依存するこの手の公園では、投資の行方は彼らの一存で決まってしまう。

日々の暮らしの面では筆者は民営化路線に懐疑的だが、明らかな事実は認めざるを得ない。ニューヨークの民間公園は素晴らしい。警備チームは訓練度も、群衆整理の手腕もニューヨーク市警並みだ。

だが、成功例ばかりではない。ベッセルがいい証拠だ。

自殺防止策を講じて再開したベッセルは、今や入場料10ドルを払わなければ入れない。さらに「おひとり様」は入場不可という、グロテスクな規則もできた。

リトルアイランドが同じ問題に直面することはないだろうが、どんな場所も予想図どおりに使用されることはあり得ない。小道を設けて動線を管理する公園でも、だ。

厳格な人数制限と園内ルール(屋外飲酒や音楽は禁止)を定めるリトルアイランドへのアクセスは2カ所だけ。長い水上通路を渡らなければ入れず、管理側は入場希望者をじっくりチェックできる。そんな場所に10代の若者が大挙して現れて、パフォーマンスを行ったりしたら?

だがそれも、リトルアイランドが日常生活の一部としてニューヨークに溶け込むならの話。現実には、そうはならないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 予想上

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中