難民としてアメリカに来た少年の人生を、チェスが一変させるまで
Chess Has Changed My Life
少なくとも1日8~9時間はチェスをプレーするというアデウミ(左) KAYODE ADEWUMI
<ニューヨークのホームレス施設で先生と出会い、今は史上最年少のグランドマスターを目指している>
チェスを初めて知ったのはナイジェリアにいたときだった。兄が紙の駒を作って、動きをいくつか教えてくれた。でも、そのときはチェスのことを何も知らなかったので、あまり面白いと思わなかった。
家族でナイジェリアからアメリカに難民として渡ってきたのは2017年。ある牧師さんのおかげでニューヨークのホームレス向けシェルターに入ることができた。
僕は兄と同室で、母と父は上の階の部屋だった。そこはとても清潔な場所で、人々はとても親切だった。僕はニューヨークが大好きになった。
まだホームレスシェルターにいた小学2年生のとき、チェスの先生に出会った。彼は20~30分のレッスンで駒の動きやテクニックを教えてくれた。母は僕を学校のチェスクラブに入会させた。
19年、8歳のときにニューヨーク州の児童・生徒が参加する大会に出た。結果は5勝1分け。大会に出るのは初めてだったけれど、僕はK-3(幼稚園~小学3年生)クラスで優勝した。
心の中ではとても幸せだった
優勝したことは本当にうれしくて、自分を誇りに思った。表面上は「これは1つの大会にすぎない」という態度でいたけれど、心の中ではとても幸せだった。下の階にいた母やみんなに早く会いたかった。
ウーバーの運転手をしていた父は仕事で会場にはいなかったけれど、母は大喜びですぐに父にメールで知らせた。父は州境の向こうから「スゴいぞ!」という感じの返事をくれた。
優勝のニュースは世界中に伝わり、たくさんの人が電話をかけてきた。学校のクラブと週末のハーレムで練習を続け、レーティング(チェスの強さを点数化した指標)が1000ぐらいになったとき、母と父がグランドマスター(世界最強クラスの強豪に与えられるチェスの称号)のギオルギ・カチェイシュビリと契約して、個人的にコーチングを受け始めた。
それからもっと多くの大会に参加するようなった。19年12月にフロリダ州で開かれた全米レベルの大会では、7回の対局で6回勝ち、2位に入った。小学4年生で10歳近く上の子たちと対戦した結果なので、誇りに思った。
普段、学校がある日は1日8~9時間はチェスをプレーしていると思う。学校がない日は10~11時間練習する。
チェスを本格的に始めて2年数カ月、僕は10歳と8カ月になった。今年の5月1日には、マスターの称号を得るために必要な2200のレーティングを獲得した。