国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る
A REFUSAL TO FACE REALITY
YUICHI YAMAZAKI/GETTY IMAGES
<IOCにノーと言えない日本政府に、関係者を満足させたいだけのIOC。「安心・安全」と繰り返されても安心はできない>
東京五輪まで2カ月に迫った5月19日、「開催を実現することに集中すべき」とIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は会議で強調した。大会の是非の議論はしない、開催すると決定したのだからという意味だ。
だが6月20日まで再延長された緊急事態宣言下で、来日すらできずにいるバッハは現実を見ていない。日本の国民が感じていることを理解するため、彼に見に行ってほしい所はたくさんある。
例えば立川駅のそばにある立川相互病院。5月初旬、こう書かれた紙が窓に張り出されて話題になった。「医療は限界 五輪やめて!」「もうカンベン オリンピックむり!」
「病院長のアイデアだ。たくさんの重症者を受け入れた公立病院の職員は公務員だから、こんなことはできない。うちは民間の病院だからできる」と、同病院の看護師は説明する。
病院の前を通ってびっくりしたという50代の地元女性は「政府と医療従事者の考え方にこんなにもギャップがある。自分たちの声が届かないから、建物に書くしかなかったのだろう」と、窓を見ながら言った。
聖火リレーは海外のマスコミも無視
主催者側には開催が近づくほど、五輪を支持する国民が増えるという思い込みがある。3月25日に福島県にあるJヴィレッジから聖火リレーが出発したとき、いよいよ本格的に始まったと関係者は感じたはずだ。だが実際は無観客で、全く盛り上がらなかった。「復興五輪」と名付けて、福島県のいくつかの市町村で聖火ランナーが走ったが、誰のために、何の目的で聖火リレーをするのか?
そう思わずにいられなかったのが、東京電力福島第一原子力発電所が立地する福島県双葉町でのリレーだ。この町には事故以降、誰も住んでいない。いまだに全住民の避難が続いているからだ。建て替えられたJR双葉駅から200メートル離れた所には、10年前から無人状態のボロボロの住宅や病院がある。カメラがその悲しい背景を撮影しないように、リレーのランナーは双葉駅前だけを500メートルぐるぐると回った。
駅前にいた地元の70代女性は「見に来たわけではない。たまたま家の解体についての打ち合わせがあったから」と言う。多くの県で予定どおりに実施できていない聖火リレーについては、地元のマスコミを除いて、報道はほとんどされていない。海外のマスコミもほぼ無視している。
五輪本番が近づいた今、復興五輪とはあまり言われなくなった。代わりにキャッチフレーズになったのが「安心・安全な大会」。ただ、その安全を保証するのは無理がある。