国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る
A REFUSAL TO FACE REALITY
「今回のオリンピックはやらないほうがいいと思うので、協力しない。少なくとも僕の周りの人たちは、なぜオリンピックをやるのかという疑問を持っている人がほとんどだ」と、横須賀にある民間病院の病院長は言う。「東京に来ないでくださいとまで言っているのに、なんで世界から人を集めるの? もうちょっと一貫した議論をやってほしかった」
東京五輪の是非についての議論が全くないことは、海外から見れば大変な驚きだ。
本誌のインタビューに応じた山口香JOC(日本オリンピック委員会)理事はこう分析する。「政府や五輪組織委員会、JOCからはこれまで一度も、もしかしたらできないかもしれないという話が出たことはない。それはパリ行きの飛行機がいったん飛んだら、パリに着陸することだけを考えろというようなもので、途中で何かあっても、違う所に降りたり、引き返したりすることはないというマインドでいる。だから国民は不安なんですよ」
IOCに現状が伝わらず?
筆者が東京都や福島、大阪、長野、群馬の各県で数十人の一般人を取材したところ、東京五輪をやってもいいと答える人は1割以下だった。「いろいろな心配があるからやめたほうがいい、無理」と高齢者は強調し、若者も「普通にレストランにも行けないのに、なぜオリンピックだけOKなのか」といった意見がほとんどだ。東京五輪反対のデモ活動の参加者は多くない。でもその理由は、「コロナ禍でデモをするのはおかしい」という考えからだろう。
しかし7~8割の国民が東京五輪の「中止」や「再延期」を求めても、政府の立場は変わらない。上から目線のIOCにノーと言えない日本政府。アスリート、スポンサー、マスコミや他の関係者を満足させることが目的のIOC。「日本に対するIOCの姿勢があまりにもひど過ぎる。将来オリンピックを開催したいと思う国がどれぐらいあるだろうか?」と、フランスの雑誌記者のマチューは筆者に語った。
この状況は、日本の態度にも一因があるのかもしれない。「日本人は何かを頼まれたときに、できないと分かっていても『善処します』『頑張ってみます』と曖昧な答えをする。日本側が『なんとか頑張ります』と言えば、IOC側は『できる』と捉える。だからIOCとしては、『組織委員会や日本政府が大丈夫だと言っているのに、なぜ国民は怒っているのか?』と不思議に思っているのではないか」と、山口は言う。