最新記事

ワクチン

ワクチン接種で先行した国々に学ぶ国家戦略の重要性と、先行国が見据える未来

VACCINATION PRIDE

2021年6月16日(水)11時53分
ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)
ワクチン接種会場になった英ソールズベリー大聖堂(2021年1月)

全員一丸英南部にあるソールズベリー大聖堂もワクチン接種会場に(1月) FINNBARR WEBSTER/GETTY IMAGES

<争奪戦の勝負は1年前に決まっていた──。コロナ後に向けて前進する優等生国家の出口戦略>

イギリスのオックスフォード郊外にあるカサム・スタジアムは、地元サッカークラブの本拠地。試合のある日は、数千人のサポーターでにぎわっていた。

しかし新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きてからは、押し寄せる人々ががらりと変わった。毎週最大1万人の市民がスタジアムのゲートをくぐるが、サッカーを見るわけではない。近くのオックスフォード大学の研究室でアストラゼネカ社と共同開発されたワクチンの接種を受けているのだ。

新しい観衆もサポーターに負けないくらい熱狂的だ。昨年12月に始まった市のワクチン接種は、市民も驚くほど効率よく運営されている。

「信じられなかった」と、美術史家のイザベラ・フォーブスは言う。「行列はないし、書類の記入もほとんど必要ない。ボランティアやスタッフはとても明るい顔をしていて、私も誇らしい気持ちになった」

同じ誇りをイギリス全土が感じている。賢明な意思決定と従順な国民のおかげで、イギリスは今や先進国でもごく少数の優等生だ。つまり、国民の半数以上がワクチン接種を受けている。5月下旬で接種率(少なくとも1回接種)は56%に達した。

イギリスのワクチン戦略の成功は3回にわたる厳格なロックダウン(都市封鎖)と、新型コロナ関連の死者がヨーロッパで最多の15万人超を記録したこの国の悲惨な経験の痛みを和らげている。

EUはイギリスに大きく後れを取っている

ヨーロッパの隣人たちが羨むのも無理はない。EUは全27加盟国のワクチンを確保するため指揮を執っているが、煩雑な官僚主義のせいもあり、イギリスに大きく後れを取っている。最近はスピードアップしているものの、5月下旬の接種率(少なくとも1回)はドイツが41%、イタリアが36%、フランスが35%。G7でイギリスの数字に迫る国はアメリカ(49%)だけだ。

さらに、イギリスでは感染率と死亡率が急速に低下している。第2波がピークに達した今年1月、ウイルスは1日で1800人以上の命を奪った。しかし、5月に入ると5人を下回る日も出てきた。新聞には患者が一人もいなくなった新型コロナ用の救急病棟の写真が掲載され、通常の生活が少しずつ戻り始めている。

5月17日からは国内の大部分の地域で、愛する人を抱き締め、レストランで食事をし、パブで酒を飲むことができるようになった。ボリス・ジョンソン英首相が言うとおり、「慎重に、しかし不可逆的に」封鎖が解かれていくと期待できそうだ。(編集部注:ジョンソン首相は6月14日、変異株の拡大による感染拡大を受けて封鎖解除を1カ月延期すると発表)

もっとも、世界のトップランナーの栄誉は、イギリスではなくイスラエルのものだ。イスラエルのワクチン接種は、開始当初は1日に人口の2%が受けるという猛烈な勢いで展開され、既に62%超の人が少なくとも1回目を済ませている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中