ワクチン接種で先行した国々に学ぶ国家戦略の重要性と、先行国が見据える未来
VACCINATION PRIDE
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「コロナウイルスから最初に解放された国」を実現したと主張。世界中の国がイスラエルからワクチン戦略のヒントを得ようとしている。
イギリスとイスラエルはどのようにして、世界を牽引する存在になったのか。最初のカギは、ワクチン調達の機敏性だ。
イギリスは昨年4月に、バイオテクノロジー分野の投資経験が豊富なベンチャーキャピタリストを中心とするワクチン戦略のタスクフォースを立ち上げた。勝ちが見込めるなら未知の選択肢も辞さないという賭けは、見事に成功した。イギリスは昨年末までにアストラゼネカ、モデルナ、ファイザーなど大手製薬会社と契約を結び、ワクチンの開発段階から、安定した供給をいち早く確保した。まだ未承認の2つのワクチンも、数百万回分を注文している。
同じように重要なのは、国民の賛同だ。イギリスでは国民保健サービス(NHS)の信頼性が高いことと、マスメディアや、党派に関係なく政治家がワクチン接種を支持しているおかげで、「反ワクチン」の問題はほとんど起きていない。「イギリスの人々は信じられないほど従順だ。大きなリスクを理解し、それに合わせて行動している」と、ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院の疫学者ジョン・エドマンズ教授は言う。
ほかにもワクチン接種のアクセスの良さ(人口の98%が接種会場から約15キロ圏内に住んでいる)や、集中管理された医療システムなどを考えると、7月末までに全ての成人に少なくとも1回の接種を済ませるという目標も達成できそうだ。
ワクチンのリスクも冷静に判断
確かに、イギリスでも貧困層や一部のマイノリティーグループ(特に黒人コミュニティー)に比べ、富裕層の接種率が高い。しかし一方で、例えばアメリカは、4月の世論調査で成人の約4人に1人が積極的に接種したくないと答えている。
「アメリカには、連邦政府からのあらゆる指示を敵視する人が一定数いる。トランプ前政権下で新型コロナが政治問題化され軽視されたことが、それを助長している」と、米カリフォルニア州のワクチン接種センターでボランティア活動をしている弁護士のジョン・デリックは言う。「リバタリアン(自由至上主義者)的な理由でマスクを嫌がった多くの人が、ワクチンを打ちたくないと思っている」
ワクチンの深刻な副作用が報じられても、イギリスの人々の信頼はほとんど揺るがない。アストラゼネカ製ワクチンの接種が、命に関わる血栓の発生にごくわずかながら有意な関連性があるという調査結果が発表されると、多くの国でワクチン接種に対する信頼が急激に低下した。
しかしイギリスでは、新型コロナに感染した場合の危険性は、ワクチン接種がもたらす危険性よりはるかに高いという公式見解を、人々が前向きに受け入れている。NHSは血栓症の素因がある人にはアストラゼネカ以外のワクチンを勧めるよう、指針を更新しただけだ。