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ロシア・シリア両軍がシリア北西部イドリブ県に対する爆撃・砲撃を激化:市民を狙った無差別攻撃か?

2021年6月11日(金)17時50分
青山弘之(東京外国語大学教授)

ザマーン・ワスル、2021年6月10日

<6月10日、シリア北西部のイドリブ県では、ロシア軍とシリア軍が爆撃と砲撃を激化させているという。現地で何が起きているのか?>

シリア北西部のイドリブ県では、ホワイト・ヘルメットなど複数の反体制組織や活動家が6月10日、収穫時期に合わせて市民が避難先からザーウィヤ山地方に帰還しているのに合わせて、ロシア軍とシリア軍が爆撃と砲撃を激化させていると主張、SNSを通じてその様子を撮影した映像や画像を拡散した。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、この攻撃で12人が死亡、少なくとも11人が負傷した。

現地で何が起きているのか?

きっかけはロシア軍兵士殺害

ザーウィヤ山地方は、「決戦」作戦司令室を名乗る反体制武装連合体の支配下にある。この連合体は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)、トルコが全面支援する国民解放戦線(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)などから構成されている。このうち、シャーム解放機構はイドリブ県に残された反体制派唯一の支配地、いわゆる「解放区」において軍事・治安権限を掌握、シリア救国内閣を名乗る組織に自治を委託している。

「解放区」では、2020年3月5日にロシアとトルコが停戦合意を交わして以降、大規模な戦闘は発生していなかった。この間、トルコは停戦監視やM4高速道路(アレッポ市とラタキア市を結ぶ幹線道路)の安全を確保するとして、「解放区」各所に基地や拠点を増設し、国民解放戦線だけでなく、シャーム解放機構との協力関係を深めていた。

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筆者作成

同地では、6月6日から緊張が増していた。きっかけは、シャーム解放機構がシリア政府の支配下にあるイドリブ県ルワイハ村一帯に対して行った砲撃だった。ラタキア県フマイミーム航空基地のシリア駐留ロシア軍司令部に設置されている当事者和解調整センターの報道声明によると、この砲撃によってシリア軍の拠点複数カ所が狙われ、駐留していたロシア軍兵士1人が死亡、2人が負傷したのである。駐留していたロシア兵士1人が死亡、2人が負傷したのである。

また6日には、シリア軍がザーウィヤ山地方のマシューン村に対する攻撃で、「決戦」作戦司令室の戦闘員2人を殺害したほか、ハマー県北西部のガーブ平原やラタキア県北東部のカッバーナ村一帯の「決戦」作戦司令室支配地に90回以上の砲撃を行った。

シリア軍の攻撃は続いた。6月7日、ザーウィヤ山地方各所を100回あまりにわたって砲撃、ダイル・サンバル村で国民解放戦線に所属するシャーム軍団の戦闘員1人を殺害したほか、バイルーン村でも戦闘員(所属不明)1人を殺害した。

砲撃で民間人も犠牲となった。6月8日、イブリーン村に対するシリア軍の砲撃で、子供1人が死亡、子供2人が負傷した。

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