最新記事

アメリカ

アメリカの孤立化ではっきりした、「頼れる大国はアメリカだけ」という事実

AMERICA REMAINS INDISPENSABLE

2021年6月9日(水)11時56分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
ハマス支持者による反イスラエル集会

ガザ北部で開かれたハマス支持者たちによる反イスラエル集会 MOHAMMED SALEM-REUTERS

<中国が覇権国に挑戦を仕掛ける一方で、トランプ時代のアメリカは孤立の道へ。そこで明らかになったこと>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に加え、世界はこの10 年間、既に大国間競争の時代へと逆戻りしつつあった。だが20世紀の2つの大戦と1つの冷戦は、地政学的覇権争いの危険性をはっきり示している。

ソ連崩壊で大国間競争の時代は完全に終わったという見方が大勢だったが、この思い込みは重大な誤りであることが証明された。唯一の超大国としてのアメリカの地位は長続きせず、欧米式自由民主主義と市場経済が恒久平和をもたらすことも期待できそうにない。

それどころか、冷戦後の時代は国際秩序の喪失を印象付けた。最後に残った大国アメリカは中東と南アジアでの無意味な戦いに疲れ果て、意固地になる一方だ。

第2次大戦後にアメリカが築いた国際システムは弱体化し、権力の空白を生んでロシアや中国、トルコ、イラン、サウジアラビアといった国々がその隙間を埋めようと狙う。なお悪いことに、核拡散のリスクも息を吹き返した。

その上、ここ10年では大国化した中国が覇権国に挑戦を仕掛けている。この新たな大国間競争は米トランプ政権の誕生で表面化。アメリカは狭量な自国第一主義を推し進め、国際システムの内部混乱を生んだ。

パレスチナ問題にも背を向けた

どこよりも権力の空白が顕在化したのは中東だ。アメリカは無益なイラク戦争を終わらせ、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いに突入したが、国内でのシェールガス採掘でエネルギー自給の道が見えだすと中東からの完全撤退を目指すように。その間もイランがアメリカの穴を埋めようとし、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルも地域覇権を争う。

トランプ政権はアメリカが関与してきたイスラエルとパレスチナの紛争にも背を向けた。従来アメリカはイスラエルを支援しつつも2国家共存を後押しし、双方に妥協を求めたが、トランプ政権は完全にイスラエルの肩を持ち、パレスチナには何の役割もないかのように振る舞った。

だが最近のハマスとイスラエルの武力紛争を見る限り、パレスチナを永遠に脇に追いやることができるなどという幻想は消えた。最近ではエルサレム旧市街での衝突も発生したが、これまでとは異なり、イスラエル中心部のユダヤ人・アラブ人共生地域での出来事だった。今回成立した停戦からは、4つの教訓が導き出せるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中