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中国広州で発生したコロナ新規感染者への対処に見る中国の姿勢

2021年6月2日(水)19時24分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

この石家庄では、今年1月5日に新規感染者が発生し(54人)、6日から3日間かけて1100万人にPCR検査を行ったことで知られている。新規感染者は1月15日にピークに達したが、2月1日には0人に戻ったという記録がある。

石家庄は北京に近いこともあり、中国当局としては神経質になったものと推測されるが、「3日間で1100万人にPCR検査を行った」という事実は大きい。コロナ感染の初期対応に関する隠蔽工作の罪は許されるものではないものの、何としても感染拡大を徹底して阻止しようと全力を傾ける緊急対応のやり方は注目に値する。

日本政府には何としてもコロナを阻止するという強烈な姿勢があるのか?

今年3月1日現在の東京都の人口は、推計で1390万人となっている。23区内の人口が960万で、「石家庄では3日間で1100万人にPCR検査を完遂した」事実だけを考えても、なぜ日本ではここまでPCR検査が成されないのか、疑問を持つ日本国民は少なくないだろう。

そもそも菅総理の「コロナ阻止」に対する燃えるような絶対的信念を披露したスピーチや記者会見の回答を一度も見たことがない。東京五輪開催に関しては、執拗な意欲を「じわーッ」と持ち続けているようで、それも呪文のように「安心安全を第一に開催する」をくり返すだけだ。

ただの一度も、「私は日本国民の命に全責任を持っている。どんなことがあってもコロナ禍から日本国民を守ってみせる!それが私の最優先課題だ!」という、ほとばしるような言葉を聞いたことがないし、そのような熱情も「目の勢い」や「表情」から感じたことがない。

それがあったら、国民は拍手喝采して応援するだろう。しかしほぼ皆無だ。

日本国民の「安心安全」は、東京五輪の「安心安全」開催のための、付随的なものでしかないように映る。

ワクチン接種も、東京五輪が目前に迫った今になって、初めて加速に号令をかけるような始末で、どの国よりもスタートが遅い。そもそも医療先進国であったはずの日本なのだから、どの国よりも先にワクチン開発に力を入れ、政府が投資して開発を促進させるべきだった。それさえも副反応や過去の訴訟に怖気づいて進めず、今になって動き始めるという後進国ぶりだ。

コロナは変異するごとに毒性化が増し伝染するスピードも加速化している。ウイルス専門家が「本来ウイルスは宿主(人間)を全滅させると生きていけなくなるので、宿主を維持するために弱体化していくものだが、今回のコロナはその原則と違い、毒性を強めながら変異していく傾向にある」と述べておられたことがある。

昨日も神戸で新しい変異株が見つかったようだという情報があった。

世界各国から、誰がどのような潜伏期間の長い型のウイルスを運んでくるか知れない。 それでも五輪開催の方が重要なのか。

国家の理念を問いたい。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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