最新記事

中国

G7「一帯一路」対抗策は中国に痛手か(その1)

2021年6月18日(金)13時47分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そのたびに50数カ国に及ぶアフリカ諸国が一丸となってアメリカに抗議文書を出すということをくり返している。特にトランプ前大統領がアフリカ諸国などを「糞ッたれ国家」と罵倒したときなどの抗議運動は顕著だ。

またインフラ投資新構想はアフリカ大陸などにある貧しい国々を対象としているので、アメリカなどの先進国がアフリカに投資した場合、果たして先進国の高価な製品を極アフリカの貧しい国々が購入するかという問題もある。当然、廉価な中国製品を購入するだろう。

したがって、B3Wに基づいたG7によるインフラ投資新構想の実現は前途多難だろう。

何と言ってもG7メンバー国のイタリアは「一帯一路」に加盟しているし、日本は安倍前首相が、自分を国賓として中国に招いて欲しいために、交換条件として「一帯一路」への協力を約束してしまった。日本の「第三国協力型」は、イタリアを加盟に持ち込むときにも道具として使われたほどだ。安倍氏の国賓招聘のお返しに習近平を国賓として日本に招く約束をしているために、コロナが武漢で発生した時に緊急に水際対策を取ることを躊躇したため、日本はコロナの阻止に出遅れてしまったという事実もある。このような実害を日本国民にもたらしているのが日本政府の対中姿勢だ。

だからG7で何を宣言しようと、中国にはさほど痛くはない。

決定的な痛手は中欧投資協定の頓挫

それよりも、中国にとって痛手なのは中欧投資協定の頓挫だ。

ウイグル人権問題でEUが中国に制裁を加えたのに対して、中国は報復制裁を行った。その対象人物がEU組織の重要人物であったために、EUは昨年末にようやく合意した中欧投資協定を一時停止すると宣言している。これは中国にとって相当な痛手をもたらしており、中国が報復制裁のレベルを下げない限り膠着状態が続くだろう。

そこに、バイデンはこのたび「G7+EU+NATO」という枠組みで中国への包囲網を増やしていっているので、この締め付けはジワジワとではあるが中国を心理的に追い込んでいくことが期待される。中露首脳会談でプーチンは有利にはなったが、習近平との仲に変化をもたらすことはないだろうと判断される。

慎重に検証をしなければならない要素が多いが、とりあえず「その2」では、アフリカにおける債務の現状を、世界銀行およびジュビリー債務キャンペーン(Jubilee 2000運動の起点となったイギリスの国別組織の後身で、最貧国の債務帳消しを求めて1990年から世界的に広がった社会運動)のデータに基づいて考察することとする。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

20241210issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ両軍トップ、先月末に電話会談 ウクライナ問題な

ワールド

メキシコ当局、合成麻薬1.1トンを押収 過去最大規

ワールド

台湾総統、民主国家に団結呼びかけ グアム訪問で

ワールド

東欧ジョージア、親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中