先住民アボリジニの記憶術に、ホームズ流「記憶の宮殿」凌ぐ効果 豪研究
アボリジニの記憶術は、「記憶の宮殿」方式にもよく似ている...... 35007-iStock
<オーストラリアの先住民であるアボリジニは、5万年続く文化のなかで高効率な記憶術を生み出した>
オーストラリアの先住民族であるアボリジニの文化は、地球上に現存する文化としては最も古い部類に属する。部族の重要な記憶は数万年ものあいだ、次の代へと口頭口伝で申し送られてきた。
少なくとも5万年以上のあいだ、アボリジニは唄や踊りなどの独自の文化を通じ、文字に頼ることなく重要な情報を継承してきた。彼らの伝統文化には、部族間の勢力関係や食料の入手場所など、生存に必要な複雑な情報が織り込まれている。
ところが、場合によってはこれよりも柔軟な即効性の記憶術が必要だ。当面必要な情報を素早く記憶に留めるべき場面で、唄を作っていたのでは間に合わない。そこでアボリジニは、独自の記憶術を発展させてきた。
その方法とは、現実世界のモノに記憶を結びつけるというものだ。よく慣れ親しんだ場所を歩き、目にした動植物の形状などをヒントに、記憶すべき項目が登場するストーリーを発想してゆく。後日この実体験を振り返ることで、歩いた経路と目にしたオブジェクトを思い出し、そこに結びついた記憶項目をもれなく順に思い出せるという。
シャーロック・ホームズ愛用の「記憶の宮殿」にも似ている
これは、ヨーロッパで編み出された「記憶の宮殿」方式にもよく似ている。記憶の宮殿とは、長年住んだ街や自分の家などを舞台に選び、そこに登場する特徴的な物に対し、記憶したいものを結びつけてゆくものだ。
例えば、「卵、ミネラルウォーター、消しゴム......」という買い物リストを丸暗記するよりは、「家の前で鶏が卵を産んでいる」「続いて勝手口を入ると、キッチンのテーブルにはミネラルウォーターのボトルが乗っている」「2階に上がると、子供部屋の机に消しゴムが転がっている」などと情景を描いた方が鮮明な記憶に残る。人間の脳は場所や風景などの記憶に長けており、この特性を応用したテクニックだ。
元々は古代ギリシャで発明されたと言われる記憶の宮殿は、とくに活版印刷の登場以前に重宝された。当時は手書きで本が複写されており、それゆえ書物は大変貴重なものであった。この時代の人々は書籍の現物を手元に残さなくともその内容をいつでも思い出せるようにと、記憶の宮殿を活用した暗記法に力を入れていたのだ。
近年では英BBC製作のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』で取り上げられたことで一躍有名になった。『羊たちの沈黙』に登場するハンニバル・レクター博士もこの技術の実践者として描かれるなど、創作の世界でも注目度が高い。
アボリジニ式の記憶法はこれとよく似たものだが、想像のなかでイメージを膨らませる記憶の宮殿と異なり、実際に現場を歩いて脳に刻むことが大きな特徴だ。それだけに、より効果的なのだという。