最新記事

記憶術

先住民アボリジニの記憶術に、ホームズ流「記憶の宮殿」凌ぐ効果 豪研究

2021年5月28日(金)17時04分
青葉やまと

医学生を対象にした実験で、高い効果が示された

アボリジニ式の効果を実験で確認したところ、日々膨大な量の記憶を求められる医学生のあいだでも、優れた効果を発揮することが判明した。研究はメルボルンのモナシュ大学のデイヴィッド・レイサー博士らのチームが行い、米科学学術誌のプロス・ワンに掲載された。

実験に参加したのは、オーストラリアの郊外に住む76人の医学生たちだ。20種類の蝶の名前を順番通りに記憶するという記憶力テストに挑んだ。

参加者は無作為に3つのグループに分けられた。1つ目のグループはとくに何のトレーニングも受けず、自力で記憶に努める。2つ目のグループは前述の「記憶の宮殿」を活用する。

3つ目のグループは、アボリジニ式記憶法を用いる。大学キャンパスにあるロックガーデンを実際に歩きながら、そこに配置された植物や岩などを巡り、リストにある蝶の名前をそれらの特徴などと関連づけて記憶するというものだ。

まずは基準値を測るため、グループごとに1度目の記憶テストを行った。次に、それぞれの記憶方法を伝授してから2度目のテストを行い、その効果を比較した。

満点を取った被験者の割合がどれだけ増えたかを比較したところ、記憶法のアドバイスを受けなかったグループでは、1度目のテストと比べて1.5倍の向上に留まった。同じテストを2度受けているため多少の改善は見られるが、この数字が比較のベースラインとなる。記憶の宮殿方式のグループではこれより改善し、2.1倍であった。アボリジニ式を実践したグループはこれらを顕著に上回り、2.8倍にまで改善が見られたという。

高レベルな学問の敷居を下げられるかもしれない

本実験結果を伝えるサイエンス・アラート誌は、長年語り継がれる物語を継承するには、献身的な努力と風景との強い結びつきが有効だと述べている。土地との強い繋がりを育んできたアボリジニだからこそ生み出せた記憶法だ。

研究チームは、とくに順序立てて物事を記憶するような場合において、アボリジニ式の記憶法は優れた効果を発揮すると述べている。実際に現場を歩いた体験をベースにすることから、行動の手間はかかるものの、効果の高い記憶法と言えそうだ。各グループが記憶法のトレーニングを受けたのはわずか30分間であり、短い時間で習得できるテクニックでもある。反面、6週間後の記憶量では記憶の宮殿方式に軍配が上がっており、中長期的な定着が課題だ。

モナシュ大学が発表したリリースのなかでレイサー博士は、本テクニックによって学生の学習効果が向上するだけでなく、先進的な学問分野の習得に伴うストレスを抑えることができるのではないかと述べている。苦痛を伴う暗記が常識だった分野でも、工夫次第で精神的負担を軽減してゆけるのかもしれない。

The Memory Palace : Can You Do It?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の食料価格、10月は2カ月連続下落 供給拡大で

ビジネス

ホンダ、半導体不足打撃で通期予想を下方修正 四輪販

ワールド

ロシアの限定的なNATO攻撃、いつでも可能=ドイツ

ビジネス

FRB、近くバランスシート拡大も 流動性対応で=N
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中