先住民アボリジニの記憶術に、ホームズ流「記憶の宮殿」凌ぐ効果 豪研究
医学生を対象にした実験で、高い効果が示された
アボリジニ式の効果を実験で確認したところ、日々膨大な量の記憶を求められる医学生のあいだでも、優れた効果を発揮することが判明した。研究はメルボルンのモナシュ大学のデイヴィッド・レイサー博士らのチームが行い、米科学学術誌のプロス・ワンに掲載された。
実験に参加したのは、オーストラリアの郊外に住む76人の医学生たちだ。20種類の蝶の名前を順番通りに記憶するという記憶力テストに挑んだ。
参加者は無作為に3つのグループに分けられた。1つ目のグループはとくに何のトレーニングも受けず、自力で記憶に努める。2つ目のグループは前述の「記憶の宮殿」を活用する。
3つ目のグループは、アボリジニ式記憶法を用いる。大学キャンパスにあるロックガーデンを実際に歩きながら、そこに配置された植物や岩などを巡り、リストにある蝶の名前をそれらの特徴などと関連づけて記憶するというものだ。
まずは基準値を測るため、グループごとに1度目の記憶テストを行った。次に、それぞれの記憶方法を伝授してから2度目のテストを行い、その効果を比較した。
満点を取った被験者の割合がどれだけ増えたかを比較したところ、記憶法のアドバイスを受けなかったグループでは、1度目のテストと比べて1.5倍の向上に留まった。同じテストを2度受けているため多少の改善は見られるが、この数字が比較のベースラインとなる。記憶の宮殿方式のグループではこれより改善し、2.1倍であった。アボリジニ式を実践したグループはこれらを顕著に上回り、2.8倍にまで改善が見られたという。
高レベルな学問の敷居を下げられるかもしれない
本実験結果を伝えるサイエンス・アラート誌は、長年語り継がれる物語を継承するには、献身的な努力と風景との強い結びつきが有効だと述べている。土地との強い繋がりを育んできたアボリジニだからこそ生み出せた記憶法だ。
研究チームは、とくに順序立てて物事を記憶するような場合において、アボリジニ式の記憶法は優れた効果を発揮すると述べている。実際に現場を歩いた体験をベースにすることから、行動の手間はかかるものの、効果の高い記憶法と言えそうだ。各グループが記憶法のトレーニングを受けたのはわずか30分間であり、短い時間で習得できるテクニックでもある。反面、6週間後の記憶量では記憶の宮殿方式に軍配が上がっており、中長期的な定着が課題だ。
モナシュ大学が発表したリリースのなかでレイサー博士は、本テクニックによって学生の学習効果が向上するだけでなく、先進的な学問分野の習得に伴うストレスを抑えることができるのではないかと述べている。苦痛を伴う暗記が常識だった分野でも、工夫次第で精神的負担を軽減してゆけるのかもしれない。
The Memory Palace : Can You Do It?