出勤を認める、屋内飲食を禁止しない、アクリル板・消毒剤...台湾の感染爆発は必然だった
Saving Taiwan’s Success Story
大規模なクラスターが発生した台北市万華区で消毒剤噴霧の準備をする台湾軍の兵士たち(5月16日) ANN WANG-REUTERS
<遅れてやってきた市中感染の拡大を克服するには、「過去の栄光」を忘れ、多くの民主主義国が取ってきた対策に学ぶことがカギとなる>
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が広がり始めた当初、台湾はいち早く抑え込みに成功して、世界の称賛を浴びた。水際対策を徹底し、マスクを増産し、厳格な接触者追跡・隔離システムを構築して、数カ月にわたり「新規感染者ゼロ」を達成してきた。
成果を世界にアピールすることも忘れなかった。世界中で医療物資が不足した時期にマスクを供給し、ニューヨーク・タイムズ紙には「助けられるのは台湾だ」という全面広告が有志により掲載された。2020年4月のことだ。
その台湾が今、大規模な市中感染に揺れている。急激な感染拡大と高い検査陽性率は、コロナのない生活に慣れた当局と市民の気の緩みが一因とも言われ、感染者をゼロに抑えるという「ゼロコロナポリシー」の長期的な実現可能性に疑問を投げ掛けている。
だが、台湾政府は昨年の経験から自信があったのか、従来と同じ戦略、つまりマスク着用と消毒剤の噴霧、接触者の検査と追跡、隔離、そしてクラスター発生場所の閉鎖を徹底することにした。
それでも急激な感染拡大が続いているところを見ると、これまでの戦略は、幅広い市中感染には効果が薄いのかもしれない。それなのに、台北市の一部でさえロックダウン(都市封鎖)は行われておらず、人々は外出自粛を奨励されているにすぎない。このためオフィスワーカーは今も会社に出勤している。
おそらく台湾は、この1年、試行錯誤を重ねてきた世界の国々の経験から学ぶ必要性を感じなかったのだろう。地政学的な理由からワクチンの確保は遅れているが、感染者が極めて少ない段階では、ターゲットを絞った検査と接触者追跡と隔離で十分だった。
だが、昨年3月に台湾がコロナ封じ込めに成功した後、世界では、このウイルスについてさまざまな知見が得られてきた。感染は主に、屋内で近接した場所にいる人の接触により起こること、屋内でマスクをしていても感染する可能性があること、そしてこのウイルスは飛沫感染するため換気が重要であることなどが、専門家の一致した見方になっている。
だとすれば、台湾当局がフレックス勤務や在宅勤務を奨励するばかりで、今もオフィスワーカーの出勤を認め続けていることは、感染拡大防止という目標と矛盾する。