最新記事

緊急事態宣言

緊急事態宣言継続でも人流は抑えきれず 国民が愛想尽かした「エビデンスなき政策決定」

2021年5月21日(金)21時00分
磯山友幸(経済ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

政府のエビデンスなき指示

もはや、政府のエビデンスなき指示は、誰も聞かなくなっているのではないか。

都内の百貨店は緊急事態宣言の延長を受けて閉店継続を決めたが、例外として認められている「生活必需品」の売り場の「定義」を見直す動きに出ている。高島屋は12日から、それまでの食料品、化粧品に加え、衣料品、子供服、ランドセル、リビング用品売り場も営業を再開。レストラン街も営業再開した。休業しているのは、宝飾品、美術品、玩具、ゴルフ用品売り場ぐらいという。こうした動きは、三越伊勢丹や松屋銀座などにも広がっている。メディアの取材に対する担当者の答えはいずれも「お客様の要望が強いので」という話になる。これでは「人流を抑える」どころの話ではないだろう。

すべてのツケを払うのは国民

5月7日夜に行われた緊急事態宣言延長を発表した菅義偉首相の記者会見で、いつものように陪席した新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、安価な抗原検査キットを活用した検査を積極的に行うように政府に求めた。PCR検査の拡大に消極的な対応を続けてきた尾身氏がついに検査拡大を言い始めたのは、陽性者が出たらその周囲だけPCR検査をしてクラスターを追跡・把握するという分科会がこだわったやり方が事実上破綻したことを吐露したとみていいだろう。PCR検査ではなく抗体検査を持ち出すことでなぜPCR検査をやらないのだ、という批判を回避しているようだが、検査をしなければ、当然、なぜ感染したかを追うことはできない。

ワクチンの接種率も先進国最低水準。検査件数にいたっては発展途上国よりも少ない日本。政治家も専門家も、新型コロナ対策を決定するのに、「エビデンス」が重要だと思っていないようにみえる。もともと日本の政策決定はエビデンスに基づかないということで、最近はEBPM(エビデンスに基づく政策決定)の重要性が訴えられるようになってきているが、永田町や霞が関にはまだまだそのカルチャーがないようだ。そんなエビデンスなき「自粛要請」に、誰も国民が耳を傾けなくなれば、感染爆発は避けられず、深刻な医療崩壊を招きかねない。そのツケはすべて国民に回ってくる。

磯山友幸(いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物続伸、ウクライナ紛争激化で需給逼迫を意識

ビジネス

午前の日経平均は反発、ハイテク株に買い戻し 一時4

ワールド

米下院に政府効率化小委設置、共和党強硬派グリーン氏

ワールド

スターリンク補助金復活、可能性乏しい=FCC次期委
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中