緊急事態宣言継続でも人流は抑えきれず 国民が愛想尽かした「エビデンスなき政策決定」
政府のエビデンスなき指示
もはや、政府のエビデンスなき指示は、誰も聞かなくなっているのではないか。
都内の百貨店は緊急事態宣言の延長を受けて閉店継続を決めたが、例外として認められている「生活必需品」の売り場の「定義」を見直す動きに出ている。高島屋は12日から、それまでの食料品、化粧品に加え、衣料品、子供服、ランドセル、リビング用品売り場も営業を再開。レストラン街も営業再開した。休業しているのは、宝飾品、美術品、玩具、ゴルフ用品売り場ぐらいという。こうした動きは、三越伊勢丹や松屋銀座などにも広がっている。メディアの取材に対する担当者の答えはいずれも「お客様の要望が強いので」という話になる。これでは「人流を抑える」どころの話ではないだろう。
すべてのツケを払うのは国民
5月7日夜に行われた緊急事態宣言延長を発表した菅義偉首相の記者会見で、いつものように陪席した新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、安価な抗原検査キットを活用した検査を積極的に行うように政府に求めた。PCR検査の拡大に消極的な対応を続けてきた尾身氏がついに検査拡大を言い始めたのは、陽性者が出たらその周囲だけPCR検査をしてクラスターを追跡・把握するという分科会がこだわったやり方が事実上破綻したことを吐露したとみていいだろう。PCR検査ではなく抗体検査を持ち出すことでなぜPCR検査をやらないのだ、という批判を回避しているようだが、検査をしなければ、当然、なぜ感染したかを追うことはできない。
ワクチンの接種率も先進国最低水準。検査件数にいたっては発展途上国よりも少ない日本。政治家も専門家も、新型コロナ対策を決定するのに、「エビデンス」が重要だと思っていないようにみえる。もともと日本の政策決定はエビデンスに基づかないということで、最近はEBPM(エビデンスに基づく政策決定)の重要性が訴えられるようになってきているが、永田町や霞が関にはまだまだそのカルチャーがないようだ。そんなエビデンスなき「自粛要請」に、誰も国民が耳を傾けなくなれば、感染爆発は避けられず、深刻な医療崩壊を招きかねない。そのツケはすべて国民に回ってくる。
磯山友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。