最新記事

緊急事態宣言

緊急事態宣言継続でも人流は抑えきれず 国民が愛想尽かした「エビデンスなき政策決定」

2021年5月21日(金)21時00分
磯山友幸(経済ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

4度目となる緊急事態宣言に日本国民はうんざり。写真は東京都で14日撮影 Naoki Ogura - REUTERS

東京・大阪をはじめとした緊急事態宣言の対象地域に、23日から沖縄県が追加されます。その一方で9都府県では期限となる5月末に再延長という声もでてきました。こうした状況について「もはや、政府のエビデンスなき指示は、誰も聞かなくなっているのではないか」と、経済ジャーナリストの磯山友幸さんはいいます。

「国」と「都道府県」の間にある齟齬

5月11日までだった東京、大阪、兵庫、京都への「緊急事態宣言」が5月末まで延期され、5月12日からは愛知県と福岡県も加わって、対象地域が6都府県になった。宣言延長への流れを作ったのは、新型コロナウイルスの蔓延が収まらない大阪府だ。吉村洋文知事は「医療提供体制は極限の状態にあると考えたとき、緊急事態宣言は延長をお願いせざるを得ない」とし、5月6日の対策本部会議での議論を経て、正式に国に対して要請した。

もっともこの段階から、宣言を発出する「国」と休業要請などを行う「都道府県」の間に齟齬が生じていた。国は大規模商業施設などについて、措置を緩和することを検討していたのだ。

国は、緊急事態宣言自体は延長を決めたものの、宣言地域での、デパートやテーマパークなどの休業要請を緩和。1000平方メートル以上の商業施設や遊興施設については20時までの営業を認めた。また、11日までは無観客開催を要請していたスポーツやイベントについては、参加者5000人もしくは定員の50%の少ない方まで入場を認めると共に、21時までの開催を許した。大阪や東京は別途、独自の対策を採ることになるわけだが、感染拡大が収まらず状況はむしろ悪化する懸念が強まっている中で、なぜ国は「緩和」の方向に向かったのか。

業界団体からの抗議が相次いだ

関係者によると、稼ぎ時であるゴールデンウィークの直前になって「休業」を求めた政府に、業界団体などから猛烈な抗議が相次いだという。あるスポーツ系の団体トップは語る。

「感染対策を徹底しろということで、観客を半分に抑えるなど、万全の対策を講じてきた。その効果で観客の間ではクラスターは発生していない。にもかかわらず、何のエビデンス(証拠)もなしに、ムードで無観客を続けろという。とんでもない話です」

大型イベントの主催者は政治力があるからか、それとも、イベントや大型施設の休業では経済的損失があまりにも大きいためか。政府はこうした声を聞いて、「緩和」に動いたのだ。

こうした国の「緩和」に危機感を抱いた大阪府は、独自に大型施設の休業要請継続を決定。東京都は百貨店など商業施設については休業要請の継続を独自に求めることを決めたが、イベントに関しては「国の緩和方針」を受け入れた。

結果、5月11日まで臨時休業してきた大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は引き続き休園を決定したものの、東京のよみうりランドは5月12日から入場者5000人以下で営業再開、サンリオピューロランドも14日から営業再開した。一方、緊急事態宣言の対象地域から外れる千葉県に位置する東京ディズニーランドと東京ディズニーシーは従来通り、営業を続けるといったバラバラの対応になった。当初無観客でスタートした大相撲夏場所も4日目から観客を入れ始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首

ビジネス

マスク氏が訪中、テスラ自動運転機能導入へ当局者と協

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中