最新記事

インド

酸素がブラックマーケット流出、治療薬転売の医療関係者も:インド

2021年5月10日(月)18時30分
青葉やまと

インドでは酸素が入ったボンベが貴重な存在になっている...... REUTERS/Navesh Chitrakar

<感染者数が高止まりするインドで、貴重な酸素ボンベと医薬品がブラックマーケットに流出。通常の数倍から10倍の価格で取引されている>

新型コロナが猛威を振るうインドで、ブラックマーケットでの取引が後を絶たない。重症者の生命維持の要となる酸素ボンベと医薬品などが非正規のルートで取引され、毎日のように逮捕者が報じられている。

現地では医療が逼迫し、入院できない重症者が増加している。家庭での待機を余儀なくされた患者の家族たちは、愛する者の生命を救うべく、酸素の確保に奔走する。善意を尽くす医療関係者がいる一方、一部の業者と病院関係者がこうした状況を悪用し、法外な価格での取引を迫っている。

首都デリーでは、酸素充填工場における酸素ボンベへの充填能力と、病院への納品実績とのあいだに、明らかな不整合が確認された。差分が闇市に流出している模様だ。現地紙のインディア・トゥデイ誌の報じるところでは、ある業者は20トンの生産能力があるにもかかわらず、病院へは2.4トンしか供給を行っていなかった。

一件をめぐり、複数の病院が業者をデリー高等裁判所に提訴している。これに対し業者側の弁護士は、複数の病院に供給していたため生産が追いつかなかったと主張していた。裁判所は本件について、業者が酸素ボンベをブラックマーケットに横流ししていたものと認定し、デリー準州政府が充填設備の運営を代行すべきとの判断を示した。

インド政府は液化酸素の大量輸送車にGPSを装備するなど、流通状況の把握に躍起だ。しかし、シリンダーへの充填業者にひとたび引き渡されると、個々のシリンダーを追跡する枠組みは存在しない。本来医院へ納品されるべきシリンダーが闇市に流れたとしても、不正を証明する手立てがないのが現状だ。

個人レベルでも転売屋が暗躍している

個人で闇売買に手を染める者たちも続々と現れている。現地ニュース局の「ニューデリーTV」は、2本の酸素ボンベを不正に取引した容疑で、30代の男2名が逮捕されたと伝えている。本人たちは、シリンダー1本あたり日本円にして約5万5000円で入手し、7万4000円で販売する計画だったと供述している。

Amid India's Dire Oxygen Crisis, How a Thriving Black Market Is Bargaining For Every Breath In Delhi


本件で押収されたシリンダーは計5本に上り、当局は余罪を追求している。主犯格は玩具のネット販売を生業としており、通常は酸素に関わりのない者までもが転売益を求めて「闇ビジネス」に参入している形だ。

類似のケースは枚挙にいとまがない。ニューデリーTVによると、酸素発生器の販売を約14万円で持ちかける投稿がTwitter上に見られ、当局が携帯電話のシグナルを追跡する技術的捜査に乗り出した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中