最新記事

インド

酸素がブラックマーケット流出、治療薬転売の医療関係者も:インド

2021年5月10日(月)18時30分
青葉やまと

主犯と見られる女の身柄は確保されていないものの、デリー警察は4名を逮捕し、酸素発生器170台と高級車2台を押収した。4人は酸素発生器の買い占めと、ブラックマーケットでの不正な取引に関与した疑いがかけられている。

闇取引は首都以外でも活発だ。現地ニュース局の「インディアTV」によると、デリーの南東500キロほどに位置する工業都市カーンプルでは、地元警察が酸素供給会社の運営者を闇取引の罪で逮捕した。大小51本の酸素ボンベを不正に売買した疑いが持たれている。

相次ぐ闇取引に手を焼く当局は、特別対策委員会を立ち上げた。委員会は「業者らは商品価格を吊り上げ、このウイルスの『パニック』から利益をむさぼっている」と述べ、非正規の取引を行う事業者らを糾弾している。

レムデシビルの横流しで病院関係者らが逮捕された

不正取引の波は酸素のみならず、医薬品にも及ぶ。とくに需要が高い抗ウイルス薬のレムデシビルは、通常の数倍から10倍程度の価格で取引されている。

レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療用に開発されたものだが、新型コロナ患者の治癒を促進する効果がある程度認められるとして、各国が緊急承認に踏み切った。インドでは重症患者に対し、5日間に6回の静脈注射などの形で投与される。すべての新型コロナ患者への効果が保証されるわけではないが、高値での売買が絶えない。

デリーではレムデシビルを含む医薬品などの不正取引が70件を超え、これまでに91人が逮捕された。ニューデリーTVは、レムデシビルのバイアル容器425瓶のほか、抗インフルエンザ薬のファビピラビル90錠、そして200台を超える酸素発生器などが押収されたと報じている。

蔓延する闇取引に、一部の医薬品販売業者の関与が疑われている。インディア・トゥデイ誌は独自の調査により、転売屋と医薬品販売業者らが公定価格の6倍の値でレムデシビルを販売していることを突き止めたと報じている。医薬品のサプライチェーンの一部に、状況を食い物にする者たちが巣喰い、真贋不明の薬品を法外な価格で販売しているという。

インド政府は4月17日付で各社製品に上限価格を導入しており、この価格を上回る取引は許可されていない。しかし、調査中の同誌記者はブラックマーケットで暗躍するある売人から、上限価格の約6倍、日本円にして1瓶3万円程度の価格での取引を持ちかけられたという。闇相場は日々変動しており、一夜にして15%ほど上昇することもある。

CNNはインド警察による情報として、病院と薬局で薬の在庫が枯渇していることにつけ込み、最大で希望小売価格の10倍ほどの値付けが横行していると伝えている。南東部の港湾都市ヴィシャーカパトナムでは、レムデシビルのバイアルを1瓶あたり約1万3000円で販売した容疑で、病院職員4人が身柄を拘束された。

このほかデリーでは、救急搬送に対して不当に高額な料金を請求する事例も発生しており、警察は救急車3台の押収に踏み切った。

インド政府はすでに4月11日から、レムデシビルおよびその主要構成成分について輸出禁止措置を導入している。インド国内に優先して供給することで事態の収束を目指す考えだが、医院・薬局の前にはいまだ長蛇の列が絶えない。各地の薬局店頭では、購入をめぐる混乱と警察の出動が常態化している。

大多数の医療関係者が身の危険を顧みずに前線で活動する一方で、危機に乗じた転売と価格の吊り上げで暴利をむさぼろうとする目論見が後を絶たない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中