ワクチン接種進むアメリカで「変異株の冬」に警戒が高まる
BEWARE A WINTER SURGE
アメリカでは専門家の見解も揺れている。ワクチン接種などで大きな進展があったと誇る一方、終息には程遠いと警告を発してもいる。
ワイルコーネル医科大学のウイルス学者ジョン・ムーアは言う。「まだパンデミック(世界的大流行)以後の段階ではない。一部の人はそう信じたいようだが」
あのファウチ博士でさえ、昨年末にワクチンの配布計画を発表した段階では楽観的で、秋までに米国内で集団免疫(人口の相当数に免疫ができて感染拡大を阻止または大幅に抑止できる状態)を実現できると考えていたようだ。
「きちんとやれば人口の70%から85%にワクチンを接種できる。そうなれば免疫の傘で国全体を守れるから、ウイルスの勢いが十分に低下し、実質的に集団免疫を確立できるだろう」。ファウチは当時、医療系サイトの「ウェブMD」でそう語っていた。
その期待どおりにいきそうもないことは、今や明らかだ。
今年2月、シアトルにあるワシントン大学健康指標・評価研究所(IHME)の疫学者アリ・モクダッドらは世界中から集めたデータを基に、季節の違いやマスク着用率、ワクチン接種率などの変数を加えて今後の感染状況をシミュレーションした。
「結果を見て私たちは目を疑った」と、モクダッドは言う。
その晩、彼は眠れず、レバノンにいる母親に電話をかけた。病弱の母親とは1年半も会っていない。だからすぐに航空券を手配し、会いに行こうと決めた。さもないと当分は会えなくなると考えたからだ。
「冬にはまたロックダウンになり、移動が制限されるだろう」とモクダッドは言う。「見通しは暗い」
モクダッドを動揺させたシミュレーションを見る限り、アメリカでも当分は集団免疫の実現を見込めない。「冬までに実現するのは無理だ」とモクダッドは言う。「そういう計算にはならない」
なぜか。1つには、12歳未満の児童へのワクチン緊急使用許可を当局が承認しなかったため、彼らが年内に接種を終えることは不可能という事情がある。
そしてもちろん、接種対象の成人の全てがワクチン接種を受けるとは思えない。各種の調査によると、ワクチンを拒否する考えの人は依然として全体の約30%を占めている。
IHMEの試算では、12~15歳の学童についてもワクチン接種の拒否率は30%程度という前提に立っているが、自分の子に対する接種を拒否する考えの親はもっと多いかもしれない。
ワクチンの接種ペースは既に落ち始めている。米疾病対策センター(CDC)によると、米国内の1日当たり接種回数(過去7日間の移動平均値)は4月11日の約330万回がピークで、以後は急低下している。