米中「悪魔の契約」──ウイグル人権問題
その父の理念に背いて習近平が少数民族弾圧をしているのは、中国共産党という一党支配体制を維持するには少数民族弾圧が不可欠であることを示している。そのことを認識しなければならない。これは「中国共産党建党100年秘史」を深く正確に考察して、初めて出てくる回答である。
その考察を深めなければ、現在の「強制収容所」などによるウイグル人への弾圧が習近平政権の特異な状況のように誤解して、習近平が下野して他のトップに入れ替わればウイグル人への弾圧がなくなるのではないかという誤解を招く危険性がある。
中国は建国当初から一貫して少数民族、特にウイグル人への弾圧を行っており、今日に至るも、それを緩めたことはない。
中国政府の規定に従えば、ここで「ウイグル人」と書くこと自体、私が中国に入れば逮捕されるかもしれない話で、本来ならば、「ウイグル族」と書かなければならない。
しかし人権弾圧とウイグル地区への侵略をしてきたことに対して抗議運動を続けている「ウイグル人」の名誉と尊厳のために、ここでは敢えて「ウイグル人」という言葉を用いている。
ウイグル人たちは中国がウイグル(東トルキスタン共和国)に「侵略」して、軍事力により「自治区」に組み込んだのであって、ウイグル人問題は「中国の内政問題」ではなく、「中国による侵略問題」だと主張している。
アメリカが「東トルキスタン・イスラム運動」組織をテロリストから削除
2020年11月6日、トランプ政権は中国がウイグル人への弾圧を正当化してきた「東トルキスタン・イスラム運動」組織の存在を否定すると発表した。「そのような組織が存続している確証が10年以上前から得られていないからだ」というのがその理由。
これに関して長年取材に応じてくれている日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメットさん(日本在住)は「そもそも東トルキスタン・イスラム運動などという組織は存在していません。中国がウイグル人弾圧を正当化するために創り出した架空の組織に過ぎません。それを2002年にアメリカが利用しただけなのです」と断言する。
ポンペオ前国務長官は、2021年1月19日、現役最後の日に「中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル族ら少数派の迫害は、ジェノサイド(集団虐殺)である」という声明を発表した。翌日に正式に誕生したバイデン政権への置き土産の一つとみなすことができる。
そこには恐るべき執念を覚える。これによりバイデン政権を呪縛し、そこから逸脱したらアメリカ国民の「民意の鉄拳」が下ると宣言しているかのようだ。
2021年4月29日(日本時間)、大統領就任100日目の演説でバイデンは施政方針演説を行い、習近平を「専制主義者」と呼び、「民主主義の優位を示して中国との競争に勝つ」との決意を示した。その本気度を祈りたい。
と同時に、中国がもし民主主義国家をその支配下に置いた時に、どのようなことが起きるかを、ウイグル人弾圧が示していることに注目したい。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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