米中「悪魔の契約」──ウイグル人権問題
この記事によると、アーミテージは当時の国家副主席・胡錦涛、国務院副総理・銭其琛、外交部長・唐家セン、外交副部長・李肇星、中国人民解放軍副総参謀長・熊光楷、駐米大使・楊潔チ等、非常に幅広い人たちと会っている。特筆すべきは、唐家センがアーミテージとの対談で、以下のように言っていることである。
──中国は、アメリカが「東トルキスタン・イスラム運動」という組織を「テロ組織」のリストに加えると決定したことを高く評価します。米中双方が、互いに互恵的にテロ対策に関する協力を強化することを希望しています。
すなわち、アメリカがイラク制裁を断行することに中国が反対しないならば、アメリカは中国が「新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の抗議活動を、東トルキスタン・イスラム運動を組織するテロ組織とみなすこと」を認め、「テロ組織のリスト」に加えると約束したことになる。
これを私は米中「悪魔の契約」と名付けたい。
なぜなら中国は「アメリカの承認」を得て、その後は堂々と「反テロ政策」の名の下にウイグル人の人権弾圧を強化する行動に出ることができるようになったからである。
中国のアメリカへの返礼――イラクに対する国連安保理決議を支持
2002年10月25日、今度は江沢民が訪米し、テキサス州クロフォードにあるブッシュの自宅で会談した。1年以内に3回も米中首脳会談が行われるというのは異例の事態だ。両者ともそのことに言及して高揚し、「双方向性の互利互恵の精神に基づいて、反テロ交流と協力を強化していこう」ということで一致した。この時「人権や宗教」の問題に関しても討議し、互いに助け合っていこうとしたことは注目に値する。
決定的だったのは、国連安保理におけるイラクの完全な武装解除要求などを中心とした制裁決議に関してブッシュが中国に協力を求め、江沢民がそれを承諾したことである。アメリカが欲しいのは、そのことだった。
その2週間ほどあとの2002年11月8日、国連安保理は中国を含む全会一致でイラクへの制裁を決議させた(1441号決議)。この審議過程と決議内容は、ここで確認することができる。
これによりアメリカはイラク戦争へと突入する大義名分を得、中国はウイグル人弾圧のお墨付きをアメリカから得たことになる。
中国としては、中国政府にとって危険だと思われるウイグル人を「テロ民族」として殺害する正当性を得て、弾圧はますますエスカレートしていくのである。
ウイグル人への弾圧は中国建国から続いている
今ではまるで、習近平政権になってから急にウイグル人への弾圧が強化されるようになったかのごとく認識され報道されているが、とんでもない話だ。
中国は建国以来、途絶えることなくウイグル人への武力弾圧を続けてきた。
拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に詳述したが、建国当初、王震(1908年‐1993年)がウイグル人を武力により大量虐殺したことで有名で、それに反対したのは習近平の父・習仲勲(1913年- 2002年)だった。少数民族地域に囲まれた陝西省生まれの習仲勲は、少数民族を愛し、死ぬまで少数民族との融和策を信念として主張し続けた。