最新記事

中国

米中「悪魔の契約」──ウイグル人権問題

2021年4月30日(金)18時39分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

この記事によると、アーミテージは当時の国家副主席・胡錦涛、国務院副総理・銭其琛、外交部長・唐家セン、外交副部長・李肇星、中国人民解放軍副総参謀長・熊光楷、駐米大使・楊潔チ等、非常に幅広い人たちと会っている。特筆すべきは、唐家センがアーミテージとの対談で、以下のように言っていることである。

──中国は、アメリカが「東トルキスタン・イスラム運動」という組織を「テロ組織」のリストに加えると決定したことを高く評価します。米中双方が、互いに互恵的にテロ対策に関する協力を強化することを希望しています。

すなわち、アメリカがイラク制裁を断行することに中国が反対しないならば、アメリカは中国が「新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の抗議活動を、東トルキスタン・イスラム運動を組織するテロ組織とみなすこと」を認め、「テロ組織のリスト」に加えると約束したことになる。

これを私は米中「悪魔の契約」と名付けたい。

なぜなら中国は「アメリカの承認」を得て、その後は堂々と「反テロ政策」の名の下にウイグル人の人権弾圧を強化する行動に出ることができるようになったからである。

中国のアメリカへの返礼――イラクに対する国連安保理決議を支持

2002年10月25日、今度は江沢民が訪米し、テキサス州クロフォードにあるブッシュの自宅で会談した。1年以内に3回も米中首脳会談が行われるというのは異例の事態だ。両者ともそのことに言及して高揚し、「双方向性の互利互恵の精神に基づいて、反テロ交流と協力を強化していこう」ということで一致した。この時「人権や宗教」の問題に関しても討議し、互いに助け合っていこうとしたことは注目に値する。

決定的だったのは、国連安保理におけるイラクの完全な武装解除要求などを中心とした制裁決議に関してブッシュが中国に協力を求め、江沢民がそれを承諾したことである。アメリカが欲しいのは、そのことだった。

その2週間ほどあとの2002年11月8日、国連安保理は中国を含む全会一致でイラクへの制裁を決議させた(1441号決議)。この審議過程と決議内容は、ここで確認することができる。

これによりアメリカはイラク戦争へと突入する大義名分を得、中国はウイグル人弾圧のお墨付きをアメリカから得たことになる。

中国としては、中国政府にとって危険だと思われるウイグル人を「テロ民族」として殺害する正当性を得て、弾圧はますますエスカレートしていくのである。

ウイグル人への弾圧は中国建国から続いている

今ではまるで、習近平政権になってから急にウイグル人への弾圧が強化されるようになったかのごとく認識され報道されているが、とんでもない話だ。


中国は建国以来、途絶えることなくウイグル人への武力弾圧を続けてきた。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に詳述したが、建国当初、王震(1908年‐1993年)がウイグル人を武力により大量虐殺したことで有名で、それに反対したのは習近平の父・習仲勲(1913年- 2002年)だった。少数民族地域に囲まれた陝西省生まれの習仲勲は、少数民族を愛し、死ぬまで少数民族との融和策を信念として主張し続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中