中南米12カ国が批准した「エスカス条約」、狙われる環境保護活動家の命を守れるか
ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。ブラジル・アマゾナス州の熱帯雨林内にある先住民の土地で、森林伐採された場所を示す人々。2019年8月20日に撮影(2021年 ロイター/Ueslei Marcelino)
ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。もっとも、人権擁護団体によれば、この条約の成否は各国政府と大企業が本気を見せるかどうかにかかっている。
ニカラグアの活動家、ロッティ・カニンガム氏は、この条約を極めて重要と位置付けている。ニカラグア国内の先住民の土地における鉱業・農業プロジェクトに反対する同氏は、殺害予告やオンラインでの嫌がらせを受けることを覚悟するようになった。
「私たちは先住民の権利や母なる大地、天然資源を保護しようとする中で、脅迫やハラスメント、殺害予告に悩まされてきた」とカニンガム氏は言う。先住民出身の弁護士である同氏は、電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じた。
「これは事実上の戦争だ。フェイスブックでは、『戦争と言うからには血が流れる』というメッセージも受け取った」と、ニカラグア大西洋岸地域公正・人権センター(CEJUDHCAN)を率いるカニンガム氏は語る。
活動家に対するこうした攻撃が、脅迫に留まらない例も多い。ラテンアメリカ・カリブ海地域では、昨年、推定300人近い人権活動家が殺害された。
カニンガム氏のような活動家にとって世界で最も危険な地域であるラテンアメリカだが、活動家に対する保護を改善し、加害者に司法の裁きを受けさせることにつながるのではないかと期待されているのが、「エスカス条約」である。
この条約は4月22日に発効する。域内33カ国のうち24カ国がこれまでに調印し、12カ国が正式に批准した。法的な拘束力を承認した12カ国のうちの1つがニカラグアである。
カニンガム氏によれば、この条約は活動家を保護するだけでなく、鉱業や畜産などの事業者に対する許認可の決定に際して、先住民の人々の「実効的な関与」が可能になることが期待されるという。
また、この条約は、活動家が環境をめぐる事件や問題に関する公式情報にアクセスできるようにすることを各国に義務付けている。
「画期的な条約」
人権・環境に関する国連特別報告者のデビッド・R・ボイド氏は、この「画期的な」条約は、「命を救う」転機をもたらす可能性があると語る。
「環境・人権活動家の保護に向けた各国政府の具体的な義務を盛り込んだ世界初の条約だ」とボイド氏は言う。
「グローバルに見て、ラテンアメリカの一部の国は、環境・人権活動家に対する暴力が頻発するホットスポットになっている。この条約は、防止措置を強化し、各国政府が守るべき義務を定めることによって、そうした状況に対処することを直接めざすものだ」と──。
ボイド氏によれば、環境保護活動家に対する犯罪は見過ごされる場合があまりにも多いが、この条約によって、各国がそうした犯罪を捜査し、加害者を訴追するよう国内法を強化することを促す可能性があるという。
この条約が発効する一方で、ラテンアメリカ諸国の一部では、活動家への攻撃が今まさに増大しつつある。