オーウェル的世界よりミャンマーの未来に投資しよう、「人間の尊厳」を原点に

2021年4月23日(金)17時56分
永井浩(日刊ベリタ)

日本への好感度が依然として高いいっぽうで、「よくわからない」が約2割にも上っていることを、調査をしたナンミャケーカインさんは意外と多い数字とみる。これは、日本政府のクーデターへの対応を見て、日本へのイメージをどう表現したらよいのかという迷いがミャンマー人で出てきている表れではないかという。

来年のティンジャンにむけて

私たちがビッグブラザーの仲間と見られないようにするには、こうした他者の鏡に映し出される自己像から目を背けてはならないだろう。

ビルマの警察官時代のオーウェルは、けっして現地住民への差別意識や反英ナショナリズムの中核である僧侶への憎しみを隠さなかった。それと同時に英国の植民地統治に強い疑問を抱いていた。『象を撃つ』は、このような内的葛藤をへて生み出された作品だから、自国の帝国主義への批判は痛切な響きを帯びて読者に届くのである。彼はそれを、既存の学問や借り物の知識に依ることなく、複雑な現実との格闘のなかで自らの目と耳とこころで正しいと信じたことを自分の言葉で表現することで示そうとした。この基本姿勢は他の作品でも変わらず、だから時代と国境をこえていまも多くの人々の胸を強く打ち、読み継がれるのである。

だとしたら、日本政府のミャンマー国軍支援をゆるしてはならないのは、私たちの隣人たちがまっとうな人間らしさを取りもどそうとするたたかいを勝手に踏みにじる罪に加担するのを阻止する必要があるからである。またそれによって、自分たちの腐敗に無神経であってはならないからである。そのことに気づけば、私たちは冷血な独裁者によって支配されていた人びとの尊厳の回復を図ると同時に、独裁者たちをひそかに支援してきた自らの非をみとめ、人間の品性を取り戻すことができるということだろうか。そうかもしれない。だが問題は、その認識が真の内省にもとづくものかどうかであろう。

さしあたり私たち日本国民がなさなければならないのは、私たちの政府と経済界がミャンマーと日本のよりよき未来のための選択肢を誤らないように声をあげることだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中