最新記事

アジア

オーウェル的世界よりミャンマーの未来に投資しよう、「人間の尊厳」を原点に

2021年4月23日(金)17時56分
永井浩(日刊ベリタ)

スーチー氏はかつての軍政時代に毎日新聞に連載した『ビルマからの手紙』で、自国への投資を急ぐ外資にこう忠告している。

「私は外国からの投資について見解をもとめられると、いまはその時期ではないと答える。そして『現在の投資』に代わるいかなる選択肢があるのかと問いただそうとする人に対しては、こう言いたい、『未来に投資しなさい』。すなわち、あなたご自身の利益のことだけを考えても、ビルマの民主化に投資しなさい。信認と信用性の裏づけのある、開放的で安定した政治システムを前提として自社の投資方針をさだめる企業は、それが、信認と国際信用の上に立つ開放的な安定経済を促進するのに役立つことがわかってくるし、またひいてはそれによって、投資企業は最高の投資利益を期待できることになるのです。民主的なビルマは経済的に力強く安定したビルマになるでありましょう」

そのようなミャンマー発展の中心的担い手となるのは、先のアンケート調査に最も多くの回答を寄せた若年層と女性であろうことを、私たちは見逃してはなるまい。

『手紙』にはティンジャンについても記されている。

ミャンマーの猛暑がピークを迎える4月におこなわれるティンジャンとは「転換」を意味し、「それは、過ぎ去った年を省みて、新年を控えた最後の数日を使って私たちの『功徳の本』の帳じりをととのえるための時間なのである」。子どもたちは、帝釈天(セッチャー)がティンジャンのあいだ、天の御殿から降りてきて、一冊は金張り、一冊は犬の毛皮張りの大きな本一冊抱えて人間界を歩きまわるのだと教えられる。功徳を積んだ人の名前は金張りの本に、正しい行いをしなかった人間の名前は犬の毛皮張りの本に記される。

ミンアウンフライン総司令官らは当然、毛皮張りの本に記されることは間違いないだろう。その仲間だった日本人たちも名を連ねることになるかもしれない。

ティンジャンは暑さを吹き飛ばそうと、男女が陽気に水をかけ合う光景から「水かけ祭り」とも呼ばれるが、この「アターの水」は「平和と繁栄と不浄の清めを象徴する」という。

今年のティンジャンは、国軍の弾圧がつづくため、最大都市ヤンゴンでも例年なら人びとがあふれる大通りも人影はまばらだった。市民は祭りに用意した植木鉢に国軍への抗議を象徴する「3本指」の絵を描き込むなどして、静かな抵抗をつづけた。

来年のティンジャンは新年の恒例行事としてだけではなく、ミャンマーの人びとが国の政治の新たな再出発を祝う歴史的な意味をもつことになるはずである。

*この記事は、日刊ベリタからの転載です。

*筆者の記事はこちら

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中