イスラエル政治が大混乱...その陰で「争点ですらなくなった」パレスチナ問題
The Real Losers of Israel’s Election
「イスラエルの次期政権は史上最も右派的になるだろう」と、米ブルッキングス研究所のナタン・サックスは言う。今回の選挙の主な争点はイデオロギーではなく、ネタニヤフ政権の是非だった。その支持・不支持は分かれたが、右派に賛同する有権者の票が過半数を占めた。
さらに、極右の宗教的シオニスト党が6議席を獲得しており、リクード主導の連立政権に加わる可能性がある。同党のべツァレル・スモトリッチ党首は「誇り高きホモフォーブ(同性愛嫌悪者)」を自称。党員はカハネ主義のイデオロギーを継承している。
カハネ主義とは、ユダヤ人至上主義を公然と唱え、神政国家イスラエルの建設を掲げるものだ。メイル・カハネ師が創設した極右政党「カハ」はイスラエルで90年代に非合法化され、米国務省から国際テロ組織に認定されている。
「リクード党のさらに右に位置する政治勢力の台頭によって、パレスチナ人の生活と居住権がいっそう危険にさらされている」と、人権団体「アダラ正義プロジェクト」のサンドラ・タマリ事務局長は言う。「パレスチナ人は、イスラエルにおける過激な暴力の標的になり続けるだろう」
極右の宗教的シオニスト党に投票したのは、有権者の中でも少数派にすぎない。その多くは、いずれ西岸のユダヤ人入植地に住むだろう。パレスチナ側は、今年に入り入植者による攻撃が増えていると主張しており、選挙結果を受け、入植者の過激な行動に拍車が掛かる恐れがある。
極右勢力の伸長は、対パレスチナ強硬派である議会多数派を相対的にソフトに見せる恐れもある。「極右は、パレスチナ自治区を全て編入して、イスラエルの主権を宣言したがっている」と、サックスは語る。
しかし「中道右派も、パレスチナに対するさらなる領土割譲や自治権拡大は認めたくない。タカ派に至っては、パレスチナ自治政府との一切の取引を嫌がっており、今やほとんどが2国家共存策に明確に反対している」という。
パレスチナの国家樹立に向けた動きは、ここ数年大きな逆風を受けてきた。2018年に当時のドナルド・トランプ米大統領が、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したほか、これに抗議するパレスチナ人200人近くがイスラエル治安部隊の鎮圧で命を落とした。