最新記事

貿易

アマゾンに慣れきった私たちに、スエズ運河の座礁事故が教えてくれること

Ending Our Sea Blindness

2021年4月5日(月)18時35分
ジェーソン・バートレット(新米国安全保障センター・リサーチアシスタント)
スエズ運河を塞ぐように座礁したエバーギブン

スエズ運河を塞ぐように座礁したエバーギブン(3月28日) MAXAR TECHNOLOGIES-REUTERS

<海の難所や天候、それにサイバー攻撃──国際貿易の8割を担う海運の実態はびっくりするほど脆弱だ>

国際海運の要であるスエズ運河を6日余り塞いでいた大型コンテナ船「エバーギブン」が、ようやく離礁した。今回の事故は、世界経済(と私たちの日常生活)を支える海運の脆弱性に、多くの人が気付く格好の機会になった。

歴史を振り返れば、国際海運の混乱が飢餓や戦争を招いたケースは少なくない。第1次大戦中に英海軍が実施した海上封鎖は、ドイツ国民を文字どおり飢えさせた。1967年にエジプトのガマル・アブデル・ナセル大統領がアカバ湾を封鎖してイスラエル船を阻止したことは、第3次中東戦争の引き金となった。

今回、オランダのロッテルダムを目指していたエバーギブンが座礁したのは、他意のない事故だったようだが、世界の海運業界は慌てた。なにしろ、1975年に1日平均26.6隻だった同運河の通航数は、2019年には51.7隻へと倍増し、通航貨物量は1日240トンから3307トンへと約14倍も増えているのだ。

大量の貨物を運ぶために、船の大型化も進んできた。エバーギブンは全長400メートルと世界最大級。20フィートコンテナ換算で2万個を積んだ状態で座礁した。

「今回の事故は、私たち業界の人間にとっては大きな驚きではなかった」と、コンサルティング会社コントロール・リスクスの海洋アナリストであるコーマック・マギャリーは言う。「コンテナ船があまりにも大型化してきたため、いつかこういう事故が起こると長年警告してきた」

「コンテナ船事業は莫大なコストがかかり、利幅は薄い。だから海運会社は、より大きな船を使おうとする」と、マギャリーは指摘する。「しかも10年前は最大規模の船でもコンテナ数は1万個だったが、今は2万を超える」

国際貿易の80%が海上輸送によって担われ、このうちスエズ運河を通過するのは12%。今回、スエズ運河が塞がれたことで足止めを食らった1日平均51.7隻の貨物船は、難しい選択を迫られた。運河の両端でエバーギブンが離礁するのをじっと待つか、それともスエズ通航を諦めて昔ながらの回り道をするか。つまりアフリカ大陸最南端の喜望峰を回るか、だ。

実際、エバーギブンが動きだすまでに、運河の両端で大型コンテナ船372隻(とそれよりも小型のコンテナ船)が通航再開を待った。その一方で、超大型コンテナ船HMMダブリンなどは、南アフリカ回りに航路を変更した。

海賊やミサイル攻撃も

今回の事故は、スエズ運河だけでなく、海運全般の脆弱性に注目が集まるきっかけにもなった。そして海上輸送を脅かすのは、船舶の座礁事故だけでは到底ない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中