アマゾンに慣れきった私たちに、スエズ運河の座礁事故が教えてくれること
Ending Our Sea Blindness
「例えばギニア湾では(海賊による)貨物船攻撃が急増している。ペルシャ湾では3月、イスラエルの貨物船がミサイル攻撃を受けたとされる。貨物船をターゲットにした代理戦争は多い」と、国際的な保険代理店ウイリス・タワーズワトソンのサイモン・ロックウッドは指摘する。
GPSスプーフィング(成り済まし)の問題もある。2017年、黒海を航行中の船舶20隻以上が、GPSの異常を報告した。「正しい位置情報が表示されるときもあれば、そうでないときもあった。数日間、陸上の地点(ロシア・ゲレンジク空港付近)が表示されていたが、実際には船はそこから45キロ以上離れた海上にいた」と、ある船の船長は米海事局に報告した。現場が黒海であることを考えると、ロシア政府の仕業である可能性が高いが、目的は分かっていない。
こうした事故は保険料にも影響を与え、輸送費(最終的には商品価格)を上昇させる可能性がある。2019年7月にイランの革命防衛隊がホルムズ海峡でイギリス籍の石油タンカーを拿捕する事件があったが、それ以降、同海峡を通航する船の保険料は急上昇した。
今回、スエズ運河の座礁事故で足止めを食らった貨物船の多くが、遅延保険に入っていないことも明らかになってきた。こうした損害は、最終的には物品の末端価格に影響を与える可能性がある。
エバーギブンの事故は、こうした船の乗組員について私たちが考える機会にもなった。現在、世界の海運業界が雇用する船員は約170万人に上るが、その多くは中国、フィリピン、インドネシア、ロシア、ウクライナ、そしてインドの出身者だ。
簡単にできる航行妨害
エバーギブンの船主は日本企業だが、船員は全員インド人だった。「上級船員は教育水準が高く、ヨーロッパ出身者のことが多い」とマギャリーは語る。下級船員の仕事はきつく、家族と長期間離れ離れになるのに、給料は高くない。彼らの人件費が抑えられていることは、私たちが安価な輸入品を手にしている理由の1つでもある。
だが、その恩恵は容易に失われる可能性がある。ロシア政府が突然、自国出身の船員たちに船に乗ることを禁じたら、世界の海運業界を大きく揺さぶることができるだろう。中国の場合、船員だけでなく、貨物船そのものの運航を禁止する可能性もある。あるいは、悪質な国の政府が、どこかの貨物船のGPSシステムに侵入して、敵国の海域に誘導するといったこともあり得る。