最新記事

貿易

アマゾンに慣れきった私たちに、スエズ運河の座礁事故が教えてくれること

Ending Our Sea Blindness

2021年4月5日(月)18時35分
ジェーソン・バートレット(新米国安全保障センター・リサーチアシスタント)

「例えばギニア湾では(海賊による)貨物船攻撃が急増している。ペルシャ湾では3月、イスラエルの貨物船がミサイル攻撃を受けたとされる。貨物船をターゲットにした代理戦争は多い」と、国際的な保険代理店ウイリス・タワーズワトソンのサイモン・ロックウッドは指摘する。

GPSスプーフィング(成り済まし)の問題もある。2017年、黒海を航行中の船舶20隻以上が、GPSの異常を報告した。「正しい位置情報が表示されるときもあれば、そうでないときもあった。数日間、陸上の地点(ロシア・ゲレンジク空港付近)が表示されていたが、実際には船はそこから45キロ以上離れた海上にいた」と、ある船の船長は米海事局に報告した。現場が黒海であることを考えると、ロシア政府の仕業である可能性が高いが、目的は分かっていない。

こうした事故は保険料にも影響を与え、輸送費(最終的には商品価格)を上昇させる可能性がある。2019年7月にイランの革命防衛隊がホルムズ海峡でイギリス籍の石油タンカーを拿捕する事件があったが、それ以降、同海峡を通航する船の保険料は急上昇した。

今回、スエズ運河の座礁事故で足止めを食らった貨物船の多くが、遅延保険に入っていないことも明らかになってきた。こうした損害は、最終的には物品の末端価格に影響を与える可能性がある。

エバーギブンの事故は、こうした船の乗組員について私たちが考える機会にもなった。現在、世界の海運業界が雇用する船員は約170万人に上るが、その多くは中国、フィリピン、インドネシア、ロシア、ウクライナ、そしてインドの出身者だ。

簡単にできる航行妨害

エバーギブンの船主は日本企業だが、船員は全員インド人だった。「上級船員は教育水準が高く、ヨーロッパ出身者のことが多い」とマギャリーは語る。下級船員の仕事はきつく、家族と長期間離れ離れになるのに、給料は高くない。彼らの人件費が抑えられていることは、私たちが安価な輸入品を手にしている理由の1つでもある。

だが、その恩恵は容易に失われる可能性がある。ロシア政府が突然、自国出身の船員たちに船に乗ることを禁じたら、世界の海運業界を大きく揺さぶることができるだろう。中国の場合、船員だけでなく、貨物船そのものの運航を禁止する可能性もある。あるいは、悪質な国の政府が、どこかの貨物船のGPSシステムに侵入して、敵国の海域に誘導するといったこともあり得る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中