ホラー&サスペンスの金字塔『羊たちの沈黙』30年越しの課題
The Silence of the Lambs at 30
「バッファロー・ビルは服装倒錯でサイコパスな連続殺人鬼の典型で、その系譜は1960年の『サイコ』あたりまでさかのぼることができる」と、GLAAD(同性愛者の名誉を守る同盟)のトランスジェンダー・リプレゼンテーション・ディレクター、ニック・アダムスは言う。
「91年や、さらには現代でも映画の観客は基本的に、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の女性と、服装倒錯のサイコパス、悪辣な目的のために女性のふりをする男性、パフォーマンスとして女装するシスジェンダー(心と体の性が一致している人)の男性をひとくくりにし、混同している」
アダムスは、映画制作者の意図に関係なく、バッファロー・ビルは非常に有害な影響をもたらしたと言う。「『羊たちの沈黙』を見る人は、ハリウッドがトランスジェンダーや(典型的なジェンダーの規範に当てはまらない)ジェンダー・ノンコンフォーミングの人を悪者や被害者、からかわれる変人として描いてきた歴史を認識するべきだ。そのことは、ネットフリックスのドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』を見ればよく分かる」
傷つけ続けてきた歴史
アダムスによれば、間違ったステレオタイプのキャラクターが何十年もの間、トランスジェンダーを傷つける文化を築いてきた。『羊たちの沈黙』も、意図的かどうかにかかわらず、その歴史の一部だと認めることが重要だろう。
クィア(性的少数者)のホラー映画に関するドキュメンタリーに携わった映画制作者のサム・ワインマンもこう指摘する。「クィアの悪役がいることが問題なのではない。クィアの悪役しかいないことが問題なのだ。クィアは殺人者の役か、映画が終わる前に死ぬ役ばかり。クィアのヒーローはいない」『羊たちの沈黙』に対するクィアからの批判は昔からある。しかし「クィア表現の悪い例を全て排除すると、クィアの描写がなくなってしまう。
『羊たちの沈黙』のような作品を実際に見て、どうすればもっとよくできるのか、考えなければならない」
批判はさておき、『羊たちの沈黙』が画期的な作品だったことは間違いない。『アザーズ』(01年)、『ゲット・アウト』(17年)、『ヘレディタリー/継承』(18年)など、その後の多くのホラー映画に大きな影響を与えている。
「何か魔法のようなものがあると感じた。ただただ、魔法だった」と、フォスターは言う。「もう誰も、あそこには到達できないだろう」
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら