最新記事

米外交

バイデン政権も「中国への強硬姿勢は正しい」と、脱中国に挑む

WALLED IN

2021年3月31日(水)19時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

「民意を反映する政治センター」によると、テレビ、音楽、映画業界はバイデン陣営に合計1900万ドルを寄付したが、トランプ陣営への献金は1000万ドルにとどまったという。

以前から中国進出に強い関心を抱いてきた各社は、「究極の競争」なるものがどう定義されるかに注目している。「誰も穏和な戦略的関与の時期に戻れるなんて甘いことは考えていない」と指摘するのはランド研究所の東アジアを専門とする政治学者スコット・ハロルドだ。「しかしトランプよりは対決的でなくなるよう、圧力が確かにかかる」

調整努力は容易でないということは既に明白だ。トランプ政権は末期に厄介な問題の火に油を注いだ。バイデンの就任前日の1月19日、当時のマイク・ポンペオ国務長官は中国のウイグル人弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)と人道に対する罪」と断言している。

210330p18_PEL_05.jpg

、2017年に北京で歓迎セレモニーに参加するトランプと習近平 THOMAS PETERーREUTERS


これで米中関係は天安門事件以来で最悪の事態となった。バイデンの外交チームを支えるジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、カート・キャンベル国家安全保障委員会(NSC)インド太平洋調整官、および国務長官のブリンケンは、あのタイミングでのポンペオの発言に激怒したと伝えられる。

ウイグル人の強制収容が国際法上のジェノサイドに相当するか否かについては、国際社会でも意見が割れている。バイデン政権は独自の判断を下すつもりでいたが、ポンペオに先を越された。これをすぐにひっくり返せば、中国に対し「弱腰」だと非難されかねない。それでブリンケンは就任早々、やむなくポンペオ発言に同意する旨を述べた。

脱中国化のハードルは高い

その発言は民主党の主要な支持層の一部で微妙な反応を招いた。数十年前から親中国の企業各社は歴代の米政権に対して、人権問題を棚上げするようにとロビー活動を続けてきた。人権に敏感なオバマ政権になっても、当時のヒラリー・クリントン国務長官は、中国との緊急性の高い問題を考慮するに当たって「人権問題が障害となることはない」と公言していた。

だが時代は変わった。あるウォール街の大手投資銀行のロビイストは本誌にこう語った。「(バイデンが)どの程度まで人権を重視するつもりかは不明だが、以前より重く見るだろうということは誰の目にも明らかになってきた」。ちなみにサリバンやブリンケン、キャサリン・タイ通商代表部(USTR)代表など、対中政策の要となる人物の多くはオバマ政権でも働いた経験がある。

あのポンペオ発言を撤回しない限り、バイデン政権は「ジェノサイド」という語に縛られる。ウォール街のあるロビイストは匿名を条件にこう言った。「他国の政府を『ジェノサイド』で告発した以上、何もしないではいられない。追加の経済制裁を科すのか? それでも中国の報復はないと思うのか? それではトランプ時代と同じではないか?」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中