最新記事

米外交

バイデン政権も「中国への強硬姿勢は正しい」と、脱中国に挑む

WALLED IN

2021年3月31日(水)19時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

政権内外の多くの関係者への取材で明らかになったのは、現時点では決まっていないという事実だ。ある国防総省高官の言葉を借りれば、まだ「この作業は進行中」なのだ。

無理もない。今の中国に立ち向かうことを考えれば、旧ソ連と対峙した冷戦などは楽なものだったと思えてくる。中国の経済力は当時のソ連とは比較にならないほど巨大だし、技術力も高い。EUは昨年12月、バイデン政権移行チームの制止を振り切って、中国政府との投資協定の大筋合意を取りまとめた。なぜなら中国はあと20年もすれば世界最大の経済大国となるだろうし、人工知能(AI)から量子コンピューターに至るまでの主要技術セクターで世界をリードする意思を公然と表明しているからだ。

一方で中国は人民解放軍の拡大・現代化を進め、国防総省によれば、インド太平洋地域では「(アメリカと)ほぼ拮抗する」までになっている。冷戦絶頂期のソ連に比べると中国の持つ核弾頭数ははるかに少なく、核の脅威はそれほど深刻ではないだろう。だが経済的に成功し、技術面でも優れ、世界制覇の野心を抱いている中国はかつてのソ連以上に手ごわい相手だ。

国防総省は既に、アメリカが軍事力で中国の後塵を拝する事態を懸念している。前統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォードは在任時、議会で「軌道修正しなければ、あと数年で中国に対するわが国の優位性は質的にも量的にも失われる」と述べた。オバマ政権で国防次官を務めたミシェル・フロノイも、「米軍がまだ備えていない新しい技術や能力に多額の投資を行っていく必要がある」と指摘している。

極超音速ミサイルに対する防衛網(もしも台湾をめぐる紛争が起きれば死活的に重要だ)の構築や、AI兵器の戦闘能力をどこまで向上させるかなど、問題は多々ある。上院軍事委員会のスタッフディレクターを務めた軍事評論家クリスチャン・ブローズによれば、これからのインテリジェント・マシン(AIなどの技術を搭載した機械)には戦場での敵味方識別能力を含め、殺人以外のほとんどの行為が求められる。

バイデン自身の言を借りれば、アメリカは「(中国と)究極の競争をするが、紛争をやる必要はない」。バイデンは「国際社会のルールにのっとる」とも述べ、トランプ流の手法からは距離を置いた。しかし新大統領は、こと対中政策に関しては難しい立場にある。前政権の姿勢を原則として踏襲しつつ、選挙で支持してくれた大口献金者にも配慮しなければならないからだ。

民主党支持者には、過去4年間を帳消しにしたい人もいる。彼らは政府が中国の「平和な台頭」を語った日々を懐かしがる。米中で閣僚レベルの懇談会を年2回開くというジョージ・W・ブッシュ政権で始まった米中戦略経済対話のような関係を回復したい。オバマ政権も、その対話路線を継続した。それは共和党も民主党もそろってバラ色のレンズで中国を見つめていた時代だ。

民意に応える政権運営とは

バイデン陣営への大口献金者といえばウォール街、多国籍企業の経営幹部、IT大手、ハリウッドの映画界などだろう。例えば、JPモルガンとバンク・オブ・アメリカでは合計7000人以上が大統領選で寄付をしているが、その8割以上がバイデン支持で、総額20万ドルを超えた。グーグルでは6900人、うち97%がバイデン支持だった。アマゾンは1万人で80%、ディズニーは4100人で84%という具合だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、リサイクル可能な電池・レアアース廃棄物の輸出

ビジネス

中立金利は推計に幅、政策金利の到達点に「若干の不確

ビジネス

日銀の国債買い入れ前提にせず財政政策運営=片山財務

ワールド

米下院補選で共和との差縮小、中間選挙へ勢いづく民主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中