王毅中東歴訪の狙いは「エネルギー安全保障」と「ドル基軸崩し」
中国の王毅外相とアラブ首長国連邦のアブドラ外相(3月28日、アブダビ) WAM/REUTERS
中国の狙いに関して日本では対米対抗のためという画一化された分析が散見されるが、中国の真の狙いは自国の「エネルギー安全保障」と「石油人民元」構築にある。以下、順不同だが、重要なものから考察する。
イランとの25年間の協力協定が意味するもの
3月27日、中国の王毅外相とイランのザリフ外相が、25年間の経済、政治や貿易の強化等を謳った「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名した。これにより中国はイランから25年間にわたって安定した石油の提供をイランから受けつつ、イランに対しては石油化学製品、再生可能エネルギーおよび原子力エネルギーインフラを始め民生インフラに関しても巨大投資を行う。
日本では王毅の一連の中東歴訪を、対米対抗を狙った新しい勢力圏の構築としか捉えてないが、中国のインサイダーからの分析は、これとはニュアンスを異にする。
というのはアメリカがまだオバマ政権だった2016年1月、習近平国家主席はイランやサウジアラビアおよびエジプトなどを歴訪しているからだ。
ここには長期的戦略があり、「一帯一路」構築もさることながら、何よりも「陸路を経由した石油などのエネルギー資源の安全な確保」という目的がある。
中国は世界最大の石油消費国だ。
南シナ海におけるアメリカの「航行の自由」作戦により、いつ南シナ海ルートの運航が阻止されるか分からない。アメリカの「航行の自由」作戦の歴史は非常に古いが、近年、南シナ海において頻繁に適用されるようになったのは2015年10月からである。
そもそも1992年2月に中国は全人代常務委員会により「領海法」を制定し、尖閣(釣魚島)を含めた九段線を中国の領土領海とした。日本はこれに反論しなかったどころか、同年10月に天皇陛下訪中を実現させて中国の圧倒的な経済発展に大きく寄与したが、フィリピンは違う。
常に反論し続け、遂に2014年には裁判を起こした(常設仲裁裁判所)。
そのような経緯があるので、習近平が2016年1月に中東を歴訪した目的は「万一にも南シナ海の航行が阻害された時のエネルギー輸入の陸路確保」にあったことは歴然としている。今般の王毅中東歴訪はその流れの中にあるのであって、決して最近の対米対抗というような即席の反応ではない。
近況を反映しているのはイランに対するアメリカの制裁によって、イランの制裁対象となった銀行や企業が「米ドルによる取引が困難になった」という新しい側面である。
トランプ前大統領がイランの核合意から一方的に抜けて経済制裁を科し始めたことによって、イランの経済は壊滅的打撃を受けている。そこに中国が豊富な投資(4000億ドル相当)を持ってきただけでなく石油を大量に購入してくれる。イランとしては「人民元取引」を大いに歓迎し、「デジタル人民元」さえ射程に入れている。「イラン‐中国」銀行を設立するという情報もある。