黒人国防長官が挑む米軍のダイバーシティー
NAVY FIGHTS EXTREMISM
過激主義者の排除を指示した黒人初の国防長官ロイド・オースティン JIM LO SCALZOーPOOLーREUTERS
<アメリカにも軍隊にも深く根差した、人種差別意識と過激主義の排除に乗り出すロイド・オースティンの挑戦>
アメリカ海軍は組織内から過激主義を排除し、兵員構成を人種的・性的に多様化する作業に邁進する――そう固く誓う公式報告が出た。1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件の捜査で、白人系反政府集団と米軍出身者の結び付きが明らかになったのを受けての対応だ。
あの事件で逮捕された者のうち、約20%が退役もしくは現役の軍人だった。海軍の人事部門を統括するジョン・ノウェル中将は本誌に、あのような過激思想は米軍の信ずる平等の理念に反するものであり、絶対に許容できないと語り、「いかなる理由による、いかなる差別も海軍の核心的価値に反する」と強調した。
さらに「白人至上主義や過激主義の運動に参加した兵士は、わが軍の求める職業軍人の資格を満たしていない」と述べた。そうした人物は今後、しかるべき「説明責任を問われることになる」と言う。
1月28日に議会に提出されたこの報告は全142ページ。執筆を指揮したノウェルは、そこで56の改善策を提言している。海軍として「人種差別や性差別をはじめとする組織的な偏見および個人的な偏見など、軍の姿勢に悪影響を及ぼす内部の問題を分析・評価」し、その所見に基づく改革を断行するためだ。
黒人初の国防長官に就任したばかりのロイド・オースティンも、米軍の全組織から過激主義者を排除するための措置を60日以内に講ずるよう全軍に指示している。ただし、事態の深刻さに気付くのが遅過ぎたと指摘する声もある。
差別主義者を洗い出す
テロ対策の専門家で元海軍上級上等兵曹のマルコム・ナンスは、一連の改革について本誌に「名誉と勇気と献身という海軍の核心的価値を本気で信じているかどうか。それが問題だ」と語った。ナンスの家族(女性)は軍にいた頃セクシュアル・ハラスメントを受けた経験があり、ナンス自身も軍隊で人種差別に遭った経験があるという。
露骨な人種差別は今も残っている。最近では、サンディエゴ港に停泊していたミサイル巡洋艦レーク・シャンプレーンの艦上で、黒人水兵の寝台に(人種差別を象徴する)絞首刑用の縄がつり下げられていた事例が報告されている。こうした行為の背景にある思想は、軍隊では絶対に許されないとナンスは言う。人種の違いやジェンダー、性的指向などに基づく仲間への暴力につながりかねないからだ。
「海軍には、そのような人間のために割くべき時間も場所もない」とナンスは言い、こう続けた。「敵の巡航ミサイルや機雷ではなく、仲間に殺されるかもしれないと恐れている者が艦内にいる状態で、敵と戦うことなどできるわけがない」