最新記事

米軍

黒人国防長官が挑む米軍のダイバーシティー

NAVY FIGHTS EXTREMISM

2021年2月26日(金)18時30分
ナビード・ジャマリ、トム・オコナー

過激主義者の排除を指示した黒人初の国防長官ロイド・オースティン JIM LO SCALZOーPOOLーREUTERS

<アメリカにも軍隊にも深く根差した、人種差別意識と過激主義の排除に乗り出すロイド・オースティンの挑戦>

アメリカ海軍は組織内から過激主義を排除し、兵員構成を人種的・性的に多様化する作業に邁進する――そう固く誓う公式報告が出た。1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件の捜査で、白人系反政府集団と米軍出身者の結び付きが明らかになったのを受けての対応だ。

あの事件で逮捕された者のうち、約20%が退役もしくは現役の軍人だった。海軍の人事部門を統括するジョン・ノウェル中将は本誌に、あのような過激思想は米軍の信ずる平等の理念に反するものであり、絶対に許容できないと語り、「いかなる理由による、いかなる差別も海軍の核心的価値に反する」と強調した。

さらに「白人至上主義や過激主義の運動に参加した兵士は、わが軍の求める職業軍人の資格を満たしていない」と述べた。そうした人物は今後、しかるべき「説明責任を問われることになる」と言う。

1月28日に議会に提出されたこの報告は全142ページ。執筆を指揮したノウェルは、そこで56の改善策を提言している。海軍として「人種差別や性差別をはじめとする組織的な偏見および個人的な偏見など、軍の姿勢に悪影響を及ぼす内部の問題を分析・評価」し、その所見に基づく改革を断行するためだ。

黒人初の国防長官に就任したばかりのロイド・オースティンも、米軍の全組織から過激主義者を排除するための措置を60日以内に講ずるよう全軍に指示している。ただし、事態の深刻さに気付くのが遅過ぎたと指摘する声もある。

差別主義者を洗い出す

テロ対策の専門家で元海軍上級上等兵曹のマルコム・ナンスは、一連の改革について本誌に「名誉と勇気と献身という海軍の核心的価値を本気で信じているかどうか。それが問題だ」と語った。ナンスの家族(女性)は軍にいた頃セクシュアル・ハラスメントを受けた経験があり、ナンス自身も軍隊で人種差別に遭った経験があるという。

露骨な人種差別は今も残っている。最近では、サンディエゴ港に停泊していたミサイル巡洋艦レーク・シャンプレーンの艦上で、黒人水兵の寝台に(人種差別を象徴する)絞首刑用の縄がつり下げられていた事例が報告されている。こうした行為の背景にある思想は、軍隊では絶対に許されないとナンスは言う。人種の違いやジェンダー、性的指向などに基づく仲間への暴力につながりかねないからだ。

NW_BKG_20210225191802.jpg

フットボールの試合で国歌斉唱に起立する海軍士官学校の士官候補生たち PATRICK SMITH/GETTY IMAGES

「海軍には、そのような人間のために割くべき時間も場所もない」とナンスは言い、こう続けた。「敵の巡航ミサイルや機雷ではなく、仲間に殺されるかもしれないと恐れている者が艦内にいる状態で、敵と戦うことなどできるわけがない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英競争当局、米グーグルの検索サービス調査へ

ワールド

米国務長官、トランプ次期政権に引き継ぐガザ戦後計画

ワールド

米クリフス、USスチール買収へ80億ドル確保─CE

ビジネス

中国主席、「信頼できる」協力パートナーに期待 EU
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 6
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 7
    トランスジェンダーを抹消か...トランプ政権、気候変…
  • 8
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 9
    テイラー・スウィフトの「ダンス動画」が話題...「こ…
  • 10
    ロサンゼルス山火事、死者24人に 再び強風の予報、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中