ワクチン接種による集団免疫を阻むイスラエル分断の「壁」
Finding Herd Immunity Hard to Achieve
ワクチンは政争の具
だが政治とコロナ対策を一緒にしたことで、反ワクチン派の陰謀論をあおることになった。また左派であれ右派であれ、反ネタニヤフ勢力は今や、このワクチン接種キャンペーンを政争の具にしている。
極右政党「わが家イスラエル」に所属する国会議員のエリ・アビダルは、政府のコロナ対策を批判する急先鋒で、自分は接種を受けないと市民集会の場で公言した。「私には向かない。私自身の決断だ。自分の体についての決断を下す自由は自分にある。北朝鮮じゃないのだから」
政府にコロナ対策を進言する専門家チームの一員で、ベングリオン大学大学院のナダブ・ダビドビッチ(公衆衛生学研究科)も、今回のワクチンは政争の具になっていると批判する。「これはイスラエル社会の緊張関係を反映している。少数派が抱く不信感、そして政治の不安定性。ネタニヤフが絡んでいるのだから陰謀だと信じる人もいる。そんなことはないと思いたいが、彼らの気持ちは理解できる」
得られたデータでワクチン接種の有効性は確認されているのだが、それでも嫌がる人は減らない。イスラエル最大の医療サービス会社クラリットが2月14日に発表したところでは、ファイザー製ワクチンの接種を2回受けた国民の間では、それなりの症状のある感染者が94%減り、重症者も92%減っている(この減少率はファイザーの治験結果とほぼ一致している)。
ワイツマン科学研究所による調査でも、60歳以上の国民の間では1月中旬以来、死者が50%、重症者は48%ほど減ったという。
国民にワクチン接種を促す公的な措置もある。例えばテルアビブ市郊外では、地方税の減免措置が取られている。超正統派ユダヤ教徒の多い町では、接種を受ける意思のある人を対象として安息日の前に食事を配った。人気の自然保護区の近くでは、ハイキングに行く若者向けに移動接種会場を設けてもいる。
ネタニヤフは先に、いわゆる「グリーンパスポート」の発行も承認した。要はワクチン接種の証明書で、これがあればスポーツジムにも行けるし、どこのホテルも利用できる。一般企業も、オフィスへの出入りに際してこのパスポートの提示を求めることができるという。ただし、こうした規則の正当性はいずれ訴訟で争われることになる。「接種の強制には反対だが、選択の自由を全面的に認めるわけにもいかない」と言ったのはベングリオン大学のダビドビッチ。それはたばこの喫煙が100%自由ではないのと同じだ。「ワクチン接種を拒めば、他の人の権利を踏みにじることにもなる。そこのバランスが難しい。簡単な答えはない」
<本誌2021年3月2日号掲載>
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