ワクチン接種による集団免疫を阻むイスラエル分断の「壁」
Finding Herd Immunity Hard to Achieve
しかし、このところワクチン接種のペースは急激に落ちている。テレビのニュースで見ても、接種会場はほとんど空っぽだ。今は16歳以下の人(治験データがないので接種を認められていない)を除けば誰でも接種を受けられるのだが、保健省によると1日当たりの接種数は2月13日時点で、1月のピーク時に比べて39%ほど減っていた。
ちなみにイスラエルは、実質的に占領しているヨルダン川西岸とガザ地区に暮らすパレスチナ人の大半を当初はワクチン接種の対象から外しており、この点には人権団体からの厳しい批判があった。
一方、テルアビブ在住の理容師エティ・メシカのように、「死にたくないから打たない」と言う人もいる。重篤な副反応の報告がごくわずかなのは承知しているし、今まで子供たちにはどんなワクチンも受けさせてきたが、どうしても今回のワクチンは(開発を)急ぎ過ぎた感じがして不安だ、と言う。
いずれにせよ、治験データの関係で接種対象から除外されている若年層を除いても、イスラエルはまだ270万人にワクチンを接種しなければならない。しかし高齢者以外では危機感が薄く、ワクチンについても様子見を決め込む人が多い。ベドウィン系アラブ人や超正統派のユダヤ教徒も非協力的だし、地方の労働者層も同様だ。
それだけではない。意外なことだが、医療従事者の間にもワクチン接種をためらう傾向が根強くある。2月10日現在、国内各主要病院の医療従事者の接種率は43~80%にとどまっていた。
昨年12月に同国のテレビ局「チャンネル13」が実施した世論調査でも、成人人口の約25%は「接種しない」か「1年先まで待つ」と回答していた。この国で多数派を占める若い世代が同意しなければ、集団免疫の実現は難しい。「計算上、集団免疫の確立にはワクチン接種率75~80%が必要になるが、この国には(接種対象外の)若い人が多いから無理だ」と言うのは、この世論調査を担当したナダブ・エヤル。「せめて対象者には100%の接種を期待したいのだけれど」
イスラエルでは3月23日の総選挙を控えて、ワクチン接種も政治問題化している。ネタニヤフはあちこちの接種会場を訪れ、世界に先駆けてファイザー製ワクチンの供給を確保したことを自分の大きな功績としている。
ネタニヤフの公式フェイスブックページで、ワクチン接種を拒んでいる人に関する個人情報をシェアしようと呼び掛けたこともある(さすがに、これはルール違反として即座に削除された)。
それでもワクチン接種を通じて経済活動を再開させ、総選挙での勝利を確実にしたいのがネタニヤフの戦略だ。もう1つの民間放送局「チャンネル12」でも、彼はこう力説していた。「わが国は(このパンデミックから)一番先に脱け出す。ワクチンは十分過ぎるほどあるし、配送の体制も完璧だ。わが国は世界の1番手になれる」