ワクチン接種による集団免疫を阻むイスラエル分断の「壁」
Finding Herd Immunity Hard to Achieve
エルサレムで政府のコロナ対策に抗議する超正統派ユダヤ教徒たち RONEN ZVULUN-REUTERS
<世界最速で接種を進めるイスラエルだが国民の分断と政治不信で黄信号が点滅>
いわゆる集団免疫を確立して新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める。そのためのワクチン接種競争で、他国に先んじているのがイスラエルだ。快走の秘訣は、人口が比較的少ない(国土も比較的狭い)こと、ワクチンの供給が豊富なこと、そしてピラミッド型の医療システムが機能してワクチンの配布が順調に進んでいることにある。
おかげでイスラエル(総人口930万)の接種率は今のところ世界一。既に国民の46%以上が接種を終えている。ちなみにアメリカはまだ11%程度だ。
だがイスラエル政府にとっては、ここからが正念場だ。ワクチンを信用しない人たちや若年層、そしてとかく閉鎖的な超正統派のユダヤ教徒やアラブ系住民の一部などを説得し、ワクチン接種に協力させるのは容易でない。
だが彼らの協力を得られなければ、国内の感染拡大を封じ込める日は遠のく。しかも国民の多くは、このワクチン接種キャンペーンが3月の総選挙で続投を目指すベンヤミン・ネタニヤフ首相を利するものと気付いており、そのせいもあって接種のスピードが鈍っている。
どうすればイスラエルはこの正念場を乗り切れるか。うまくいけば、もちろん集団免疫の確立を目指す各国にとって貴重な教訓となる。
集団免疫の定義はさまざまだが、一般には総人口の70%以上がワクチン接種を受け、あるいは既に(ウイルスに感染し、かつ回復して)免疫を持っていることが必要とされる。条件のいいイスラエルでさえ免疫保有率70%を達成できなければ、他の諸国の先行きは暗くなる。
接種率は低下傾向に
イスラエルが早めにワクチン接種を始められた要因の1つは、製造元の米ファイザーと直談判で話をつけ、接種後の副反応などのデータを提供することと引き換えに、ワクチンを優先的に確保できたことにある。そしてネタニヤフ首相自身、昨年12月に同国初の接種を受けている。
アメリカでは接種需要に供給が追い付かない状況が続いているが、イスラエルでは医療機関が滞りなく接種を進めてきた。結果、重症患者が減って医療従事者の負担が緩和され、3回目のロックダウン(都市封鎖)も解除できた。優先接種の対象となった高齢者(60歳以上)の90%前後は、既に1回目の接種を終えたとされる。